以下のように、1編の詩を書いた。



福島原発事故に苦しむ、すべての方々に捧ぐ。






 山河にうたう
                 朝野明


  春の園くれなゐ匂ふ桃の花下照る道に出で立つ少女


 泊のウニはトゲ振りかざし

 大間のカモメは大漁を告げ

 東通の寒立馬はゆるりと草食み

 六ヶ所のチューリップは春風のなか

 女川の夏浜歩けば鳴り砂うたい

 石巻はサクラみだれ咲き


  夏草や兵どもが夢の跡


 浪江のコスモスにミツバチやすらい

 南相馬にはたくさんのたくさんの渡り鳥

 大熊の馬の背岬に荒波寄せて

 双葉のセンダンはおぼろに香り

 楢葉のヤマユリは女王のごとく

 富岡のツツジの蜜はあまく

 東海の水田に稲穂が揺れて


  夕空晴れて秋風ふき
  
  つきかげ落ちて鈴虫なく


 御前崎のウミガメはなみだを流し

 上関のスナメリはおさな児のよう

 松江の夜はゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタル

 薩摩川内のキビナゴは海岸に遊び

 玄海の残照に漁火ともり

 伊方の阿弥陀池の朝霧深く


  国境のトンネルを抜けると雪国であった。

  夜の底が白くなった。


 高浜の青葉山に夕焼けは射し

 おおいの野鹿の滝勇ましく

 美浜の水晶浜は夏の陽にかがやき

 野坂山は敦賀の富士と仰がれ

 志賀の能登金剛は波に削られても動じず

 柏崎のアユのくちびる柔らかく
 
 刈羽のモモの果汁したたり


 どの情景もが淡く微笑む


 うつくしい自然よ

 どこへもゆくな

 黒い大きな手から

 もどってこい

 もどってこい

 もどってこい


  天地といふ名の絶へてあらばこそ汝と吾とあふこと止まめ

  天と地が永久にあるかぎり

  私たちは何度でも何度でもめぐり会える