9/10

 

目覚める直前、夢を見た。

10秒も無い程短い夢。

 

昨日読んだ漫画のせいだろう。

1コマだけの漫画、中心で赤ちゃんが涙をポロポロと零し宙に手を伸ばしている。

その上から赤ちゃんを抱きあげようとする小さな手が伸びていた。

 

白い光の中、数人の子供が赤ちゃんを迎え入れるようなイメージが膨らんだ。

顔はふっくらとして似ていないけど、赤ちゃんはよしきだと思った。

よしきをお迎えに来てくれた子たち。

とても温かい気持ちになった。

 

私「フフ…。」

自分の笑う声で目が覚めた。

 

お腹を触り、よしきがいないことを確かめた。

本当に失ったんだ。

辛すぎる現実に涙が溢れた。

 

絵に描いたような夢、こんなに都合の良いものを見てしまった自分を激しく嫌悪した。

自分で殺したんじゃないか…。

罪悪感の声がして、胸が抉れたように痛んだ。

 

そういえば体中が痛い。

筋肉痛のような痛みを全身に感じた。

よしきを握りしめた左手、点滴が刺さっていたせいもあってか、簡単に持ち上がらなくなっていた。

 

入院着から私服に着替え、荷物の整理をした。

昨日手続きで見せられた死産証明。

何も残っていないことを思い出し、事務の方にお願いしてコピーを貰った。

「経済的理由」と記載が無いことに、妙に安心した。

母子手帳の記入欄をお願いすると、また次の診察で頼むように言われた。

 

診察があるのかと思っていたけど、昨日もう1度見られたナプキンの出血量で大丈夫だと判断された。

朝食後、そのまま退院となった。

夫は近くのホテルに泊まっていたため、お迎えに来てもらった。

 

4日ぶりとは思えない程久しぶりに感じた夫。

夫「お疲れ。」

荷物を持ってくれる目の前にいる夫に安心し、街中にも関わらず泣きながら歩いた。

 

帰り道、コンビニに寄ってエクレアを食べた。

妊娠中食べられなかったものを、これから沢山食べよう。

 

車内では入院中のことや、夫が自分でも驚く程ショックを受けたこと、よしきの体重がサヨナラ(347)gだったこと、NIPTの結果でよしきが男の子だと知った時、長男よりも運動神経が良いかもしれないと思ったこと、よしきの話題で持ちきりだった。

私にとって、とても癒される時間だった。

 

自宅に着いて、また悲しみが蘇った。

 

このソファに座る時、よしきが無事に産まれてくることを信じていた。

このテーブルで食事する時、よしきに少しでも良い栄養を取りたいと思っていた。

このベッドで眠る時、よしきが明日も生きているように願っていた。

 

よしきと生きていた時間が遠くて夢のようで、もう届かなくなってしまったことを実感し、家中で号泣した。

 

夜、義実家から夫が長男を連れ帰ってきた。

長男は嬉しそうに、はにかんでいた。

 

長男「ママ、大丈夫?」

心配そうに抱き着いてきた。

私「大丈夫だよ。ママがいない間よく頑張ったね。」

 

ダメだ。泣けてくる。

涙ぐみながら長男の頬を撫でた。

温かい。柔らかい。

 

長「泣いてるの?」

私の顔をじっとのぞき込む。

私「泣いちゃった。会えて嬉しい。病院で寂しかったんだもん。長男君も寂しかった?」

少し茶化した。

長「すこーしだけね。」

 

いつもお腹を撫でて「おやすみ」を言っていた長男。

ついお腹を触ろうとして、手を引っ込めた。

 

もう、いないんだ。

胸が痛くて、喪失感で壊れそうだった。