複数車線ある道路を走っているとき、ふと隣の車線のほうが空いているように見えて、「あっちに移ればもっと早く進めるのではないか」と感じた経験は誰にでもあるだろう。少しの渋滞や停滞に出くわすたびに、頻繁に車線変更を繰り返すドライバーもいる。しかし実際には、そうした車線変更が目的地への到着時間に大きな影響を与えることは少ない。


なぜか?

それは、空いているように見える車線には他の車も流れ込むため、最終的には全体の混雑度が均衡するという構造があるからだ。つまり、「あっちの方がよく見える」現象は一時的な錯覚にすぎず、長い目で見ればどの車線も似たようなペースになるのである。


この現象を行動経済学的に分析すると、「目先の損得に過剰に反応してしまう認知バイアス」、すなわち**「損失回避」や「現在志向バイアス」**が関係していると考えられる。少しでも遅れたくないという焦り、他者に先を越されることへの苛立ち、それらが合理的な判断を曇らせ、「必要のない動き」に人を駆り立ててしまう。


そして、これは株式投資における行動とも驚くほどよく似ている。


マーケットで少し株価が下がればすぐに売りたくなり、他の銘柄が上がっていれば乗り換えたくなる。そのたびにポートフォリオをいじり、売買を繰り返してしまう。だが、頻繁なトレードの末に高いリターンを得られる人はごくわずかで、多くの場合、手数料やタイミングのズレによってリターンを取り逃がしてしまう。


「頻繁な車線変更=短期売買への衝動」

「一定の車線に留まって着実に進むこと=長期投資」


こう考えれば、車線変更の誘惑に弱い人が長期投資に向いていないというのも納得がいく。目の前の変動に一喜一憂し、冷静さを失えば、結果的に「早く着くどころか、疲れるだけ」で終わってしまう。


だからこそ、自分の弱点をきちんと把握することが大切だ。もし自分が焦りやすい、他人の動きに過敏に反応してしまうタイプだとわかっているなら、あらかじめ「長期的なゴール」を明確に設定し、そこから逆算した行動設計を持つことが必要だ。


たとえば、「この道は多少渋滞しても、最後は目的地に最短で着くと信じて走る」と最初に決めること。投資で言えば、「この資産配分で20年後に老後資金を確保する」という方針を持つこと。それがあれば、途中で少しの変動があっても動揺せず、無駄な動きで疲弊することもない。


車線を変えたくなったら、一度立ち止まってこう考えてみよう。

「この変更は、本当に必要か?」

「今のままでも、最終的に差はないのではないか?」

その問いを投資の場面にも応用できれば、あなたの資産形成は、もっと穏やかで着実なものになるだろう。