「小さい頭が出てきてる!」
授乳時、やけに痛いと思った妻が娘の口の中をのぞいた所、左下の1番、いわゆる前歯が生えつつあると言う。
「あ~んして」
と、舌ばかり出す娘に、なんとかお口を開けてもらうと、確かに小さな白い筋が一つ。歯茎の内側にひっそりと隠れるように、頭をのぞかせている。
いつもにっこりご機嫌さんの娘が、この頃珍しくぐずぐず言っていたのは、この為だったのだろう。
「歯が生えてくると、おっぱいあげる度に痛くて痛くて」
妻の友人が言っていた事を思い出した。
乳児が、もしかしたら痛いかも知れないと、おっぱいを飲む時に力の加減をする事はない。かぶりついて力一杯歯を立てられたら、その痛さは尋常ではないだろう。
風呂上がりに娘を抱くと、時折乳首を鷲掴みにされるのだが、その時の痛さと言ったら、漫画ではないが飛び上がらんばかり。変な声も出てしまう。
もし噛まれたらと思うと、背筋を巨大な氷山が滑り落ちるような気分になる。
くわばら、くわばら。
もし男性が出産時の痛みを経験したら、その痛みで死んでしまうと聞く。
女性の方が痛みに強く出来ているのは、何も出産時だけに限った事ではないのだろう。
歯が生えてきたのは、順調に育っている事の証。
と、妻は痛みよりも喜びの方が勝っている様子。
掴まれただけで痛がっている私のような男には、味わえない感覚であろう。
乳歯の出現で、我が家の育児も新たなステージに入った感がある。
夫として、父として。
私も新たな気持ちで、育児に取り組みたい。