石炭とマンガンはどちらも製鉄に欠かせない資源だが、マンガンはクリーンエネルギーにも一役買っている。日産リーフ、シボレー・ボルト、フィスカー・カルマの動力源、リチウムイオン二次電池の正極材料に採用されている。そもそもマンガンは古代、南米チリのアタカマ砂漠でミイラ作りに使用されて折り、その耐久性が蓄電においても望ましい特性と判明し、1868年にはフランスのジョルジュ・ルクランシェが、マンガン乾電池の母体を発明している。ルクランシェの電池には電解液として塩化アンモニウム水溶液が使用されていたが、マンガンには電解液中に溶解するという重大な欠点がある。過去のマンガン乾電池は、長期間使用し続けてると電解液の液漏れを起し易かった。この電解液をそのまま使用せずに液漏れが少なくかつ一定の電圧を保つより実用的な電池が日本人の手によって開発されている。バッテリーの正極にコバルト酸リチウムを使うよりも、マンガンを材料としたほうが安定性が高い。コバルト酸リチウム二次電池は、家庭用電化製品に幅広く使用されているが、過熱により熱暴走に至る心配がある。マンガンは比較的安価で資源量は豊富だが、産出地に偏りがある。世界の既知埋蔵量の約75%が南アフリカにあり、次いで中国とオーストラリアが多い。良い事ばかりのマンガンの様だが、「正極材にマンガンを用いるとバッテリーの寿命が低下する」。凡そ15年以上走行する自動車にとって耐久寿命は重要問題だし、現在は解決方法を求めて長年取り組んでいるという。
◆グラファイト負極に代えて: 銅ナノワイヤー、シリコン、カーボンナノチューブ
2つの+と-の電極は1つのコンポーネントとして機能する。つまり、イオンを蓄える量が少ない方の電極が、バッテリーの容量を制限してしまう。現在のバッテリーで足かせになっているのは負極である。半導体の材料となるシリコンは、リチウムイオン電池に使用されているグラファイト負極の約10倍のエネルギーを吸蔵する、前途有望な素材だし、シリコンは世界中の至る所に豊富に存在し、地殻の4分の1以上を占め、しかも、半導体業界で培われた高純度シリコンの生産技術により、低コストで製造できるというメリットもある。 しかし、シリコンは充電時に膨張する欠点がある。判り易く例えて言うなら風船だ。風船を薄くコーティングし、空気を入れて膨らませた後に空気を抜くと、その層ははがれ落ちてしまう。負極で失われた層は再形成する必要があるが、その分の材料が失われる。つまり、充放電を繰り返すたびにシリコンが減り、容量が低下してしまう。銅を使う電池ははるか昔に時代遅れとなったが、銅ナノワイヤーの新技術が実を結べば、将来の蓄電デバイスの重要な役割を担うかもしれない。銅は通常、電池の電極材ではなく電流コレクターとして利用されるし、マンガンと同様、電解液に溶解する傾向がある。更に、価格も比較的コスト高いと言った点もある。だが、コロラド州立大学の助教が創設したプリエトバッテリー(Prieto Battery)社は、通常のグラファイト負極の代わりに、銅とアンチモン化合物でできたナノワイヤーを利用する次世代リチウムイオン電池の試作に成功した。同社によると、ナノワイヤーの細さは人間の毛髪の5万分の1。最先端のグラファイト負極材に比べて2倍のリチウムイオンを格納できるという。現在は数時間かかる電気自動車のフル充電を、わずか数分で完了できる技術につながると期待されている。グラファイトは炭素の形態のひとつだが、同じ炭素でもナノチューブを利用した方が充電、放電の速度が上がると考えられている。ナノチューブは原子1個分の厚さしかない炭素シートを中空の管状に巻いてあり、表面積が大きいからだ。すでに酸素でコーティングしたカーボンナノチューブを負極に使用する研究が始まっている。燃料電池や金属空気電池に使われている白金触媒の安価な代替品として、カーボンナノチューブを利用する実験も行われている。
◆豊富で安価な素材: マグネシウムとナトリウム
電池材料をリチウムからマグネシウムに変えると、電圧は弱くなるが、容量が2倍になる。マグネシウムは安価で、地殻で6番目に豊富な元素だとしてペリオン・テクノロジーズ(Pellion Technologies)社では、マグネシウムの金属正極を用いた電池を開発している。「当然の事ながら鉱石のままでは使用出来ないが、少なくとも素材としての値段が安い」。 同じく豊富で低コストのナトリウムも、リチウムの代替材料として注目視されリチウムとナトリウムには共通点が多い事から、当面の材料候補になる可能性がある。東京理科大学の研究者は、ナトリウム、鉄、マンガンの酸化物を正極に、ナトリウム金属を負極に使った二次電池を開発した。手に入りやすい材料を使いながら、リチウムイオン二次電池と同等の電気を充電できるという。一方、ゼネラル・エレクトリック社(GE)は、バスや配送トラック用に、ナトリウムとリチウムの技術を組み合わせた電池システムを実証実験している。同社の声明によると、「現在の乗用電気自動車の加速性能と、大型工業用電池の電力貯蔵力を組み合わせた。リチウム電池は加速性能が高いが、走行に十分なエネルギーを溜められない」という。一方、ナトリウム電池はエネルギーを大量に貯蔵できるがパワー不足で、残念ながら実用化は、当分先の話だ。ナトリウム電池の安全性には弱点がある。ナトリウムの融点は非常に低く、電池のセル全体にナトリウム金属が沈着し易く、リチウム金属と同様に反応性が高い。水や空気と激しく反応する。EVの電池に使うにはまだまだハードルが高いと言える。
◆究極の素材? 酸素
低コストで安全、軽量、しかも豊富に存在する酸素は、二次電池の究極の材料になる可能性がある。2009年にアメリカ、デイトン大学の電気化学発電グループが開発したプロトタイプは、固体素材を使用した初の「リチウム酸素電池」で、他のリチウム二次電池が抱えている発火や爆発のリスクを解消できるという。研究チームは、電解液の代わりに固体のガラスセラミックを採用した。漏出や腐食、揮発を避けるためである。デイトン大学の工学者ビノッド・クマール(Binod Kumar)氏によれば、必要なすべての化学物質を電池内に収めるのではなく、酸素は外部から調達する仕組みだ。周囲の空気から抽出し、正極での反応に使用するという。ローレンス・バークレー国立研究所のペーション氏は、「酸素は大量に存在し、コストも極めて低い。課題は、空気から酸素だけを取り出す方法だ。水分を含んでいると問題が発生するため、水素などは分離する必要がある」。リチウム酸素電池の実用化までは更なる時間がかかるだろう。しかし実現すれば、現在のリチウムイオン電池の10倍の容量を持つ二次電池や、航続距離800キロの電気自動車、1度の充電で1週間通話できる携帯電話が誕生する可能性を秘めている。イギリスのセント・アンドリューズ大学では、リチウム酸素電池の電極に金を使用して、充放電を繰り返しても電極の分解を防ぐ実験に成功した。各国で開発が進んでいるが、解決すべき問題も多い。「携帯電話で使えるようになるのはまだ先の話だ。空気ダクトやフィルター、配管など、電池本体以外にもさまざまな装置が必要となる」とペーション氏は説明する。さらに、リチウムイオンと酸素が結合した過酸化リチウムなど、非常に化学反応しやすい物質も生成されるし、部材の開発も容易ではなく課題も高い。
つづく
