丹沢山中に眠る残骸・・・ | 世界珍ネタHunter!

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昭和56年6月2日-神奈川県丹沢牡蛭岳尾根  

ブナの原生林につかまって麓の方をのぞくと、まるで霧が地の底から湧き上ってくるような錯覚を覚えた。木村清は、神奈川県愛川町の自宅を早朝に出て、標高1567㍍の丹沢山の縦走に挑んでいた。まもなく50に手がとどこうという木村が、実家の養鶏の合間に一人で山歩きを始めたのには理由がある。ハンターとして、そろそろ、勲章を手にしたかった。地元の猟友会に誘われて、丹沢の山中に初めて入ったのは今から5年も前の昭和51年だった。それ以来病みつきになり、手頃な銃だけは揃えたものの、未だ鹿や猪と言った大型の獲物を仕留めてはいなかった。「大物を追い詰めて、何時か仕留めてやる!」
それには先ず、頑健な体を作らねばならない。その想いが、木村を山歩きに駆り立てている。早戸川の川沿いの登山道を登り、大滝沢の分岐点から蛭ヶ岳の頂上を目指すのがその日の予定だった。だが、梅雨入りの前の不安定な天候が予定の変更を迫っていた。「霧がどんどん濃くなるし、登山道からはずれて山に入ってしまったんで、早い所下りるコースを決めなければならなかった。」
傾斜が30度はあろうかという尾根下のガレ場で、縦に伸びるよりは横に這っているといった方が似つかわしそうなブナの幹に手を伸ばしながら、木村は目印の早戸川の流れを見つけようと麓の方に目を凝らした。その時、視界の端に不自然なもののある事に木村は気付いた。「最初は、木の根元が異様に膨らんでいる様な感じだったんですよ。でも、そんな事あるわけ無いですからね。近付いてみてみたんです。そしたら、裂けた太いタイヤじゃありませんか。なんでこんな所にタイヤがあるんだろうと、誰だって不思議に思いますよね。」タイヤの裂け目には土砂が詰まり、そこから一本の若木が生えていた。表面の磨耗の度合いをみるまでもなく、古いものである事が分かった。それに、タイヤの幅からして乗用車やトラックのものでは無い事も見てとれる。あらためて周囲を眺めてみた。苔むしたブナの根元や、尾根下に特有の土砂に小石の混ざったガレ場の中に、白っぽい破片が点々と散らばっていた。それはジュラルミンの破片だった。さまざまな形に捻じ曲がった破片。そのどれもが、手にしてみると未だ鋭い断面を保っている。岩場の陰には、弁当箱程の大きさのギザギザの目立ったジュラルミン片も転がっていた。三角形の一辺に等間隔でリベットが打ち込んであった。その形は、いつも見慣れた養鶏小屋の天井を支える軽量鉄骨の梁を連想させた。ただ、雑巾をしぼり過ぎたような破断面は、何かとてつもない力が加わって弾け飛んだ事を暗示していた。破片を手にした木村は、太いタイヤとねじ切ったような断面を持つジュラルミン片の組み合わせの、その延長線上にある映像に焦点を必死で絞ろうとした。尾根に向けて霧が駆け登って行った。もうあと30分もすれば、あたりはすっかり霧に包まれてしまうだろう。「早く下山のルートを決めなければ遭難してしまう・・・」と焦る心があった。その一方で、おぼろげな姿を現し始めた残骸への執着が残る。霧の流れは一瞬途絶え、尾根に初夏の日差しが降り注いだ。その時、残骸の全体を見渡せた。「飛行機だ!飛行機がここに落ちたんだ!!この山腹にぶつかったんだ。でも、一体どんな飛行機だったんだ?」声にはならなかった。足元も定かではなくなったガレ場を、手探りのように下りながら、木村は一つの事を繰り返し確認していた。「ここには間違いなく飛行機が落ちている。」



つづく





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