
零戦が実用化され部隊配備後にタイヤバーストによる事故が頻発し、当時航空機タイヤを近代的な工程で製造していた横浜タイヤの技術開示によってブリジストンやダンロップの製造技術が向上した事は既に零戦とタイヤで述べている通りである。昭和35年頃、国鉄本社でリニアモーターカー開発の話しが持ち上がった。普通の電車のように二本のレール上を車輪が転がるのではなく、軌道コイル上を磁気浮上した車体が、リニアモーターの作用で前進するもので、摩擦部分がない為、時速500km以上の超高速走行も可能というものだった。車輪を使わないのが最大のミソだが、飛行機がそうであるように、リニアモーターカーも浮上する迄と浮上走行を終えた後は必ず接地しなければならないから、やはり車輪は必要になる筈、それもゴムタイヤが良い。ブリジストンでは零戦のタイヤ事故以降、製造技術が向上し戦後も飛行機用タイヤを製造していた。飛行機の離着陸をシュミレーションするタイヤ試験装置もあり、高速タイヤは得意だったので国鉄本社にブリジストンタイヤの採用を願い出た。しかし、国鉄側の回答はそっけ無いものだった。「リニアモーターカーには、転がるものは一切つけないでやる。タイヤなんかつけたらイメージダウンになる。」と突き放されてもさらに食い下がり「じゃ、浮上するまではどうするのですか?」「シュー(そり)で鉄のガイド上を滑って行くから良い」結局タイヤの採用に関して理解を得る事が出来なかったが、必ずタイヤは必要になる筈だと判断したブリジストンでは、超高速タイヤの研究を始めた。とはいっても、時速500kmで接地してパンクしないタイヤとなると容易ではない。条件的に最も近いのはジェット戦闘機タイヤだが、これとて接地速度は時速300km程度が限度だ。そこで、タイヤの試作とテストの繰り返しとなった。飛行機用タイヤのテストは、大きなドラムを回して着陸速度に相当するところまでドラムの回転を上げて行き、飛行機が接地するときと同じ負荷をかけて、タイヤを回転するドラムに押しつける。21気圧の高圧タイヤがバーストすると爆発したような状態となり、一瞬どこに飛んだのか判らなくなる。バーストの原因は主としてタイヤの大きな歪みによる温度上昇で、実機にはタイヤが高温になると空気が自動的に抜けるようヒューズメタルがついている。結局、戦闘機等に使われているのと同レベルの高性能タイヤの試作に成功し、「タイヤはやはり必要」との国鉄技術陣の判断で、このタイヤのリニアモーターカーへの採用が決まった。

