【「八尺勾璁」から始まる天皇系譜】

記・紀の神話から、

伊邪那岐命から天照大神が受け取り

「天の安河の誓約」で須佐之男命に渡した

八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠」から

邇邇芸命の父親である天忍穂耳命が生まれていることから、

現在の天皇家にとっても最も重要な神器は「珠」であると考えられる。

「八尺勾璁」は糸魚川産のヒスイ】

「八尺勾璁」と記された「珠」、

『越後国風土記(逸文)』に「八坂丹玉」と出てくるので、

8世紀初めには三種の神器の一つである「珠」の原産地は

越後国と認識されていた可能性が高い。

新潟県糸魚川市の姫川の支流にはヒスイの原産地があり、

成分を分析した結果、縄文時代から糸魚川産のヒスイの利用が始まり、

北海道から沖縄、朝鮮半島まで分布域を広めていたという。

特に弥生時代から古墳時代にかけて威信材として用いられたために、

「三種の神器」の一つとして重要視された。

『越後国風土記(逸文)』に記されていることから、

奈良時代までは糸魚川でヒスイが産出されることが

はっきり認識されていたことは確実である。

【忘れられた「八尺勾璁」の原産地】

その後糸魚川産のヒスイの存在はいつのまにか忘れられていき、

1935年(昭和10年)ごろ糸魚川で再発見されるまで

日本国内ではヒスイは産出しないと考えられていたという。

律令・神祇令に天皇のレガリアが「神璽之鏡剣」と記されて、

すでに「珠」が無視されてしまっていることと

奈良時代のいつのころからか

糸魚川産のヒスイの存在が忘れ去られてしまったことに

何らかの関係があるのではないだろうか。

【大和朝廷はレガリアから「八尺勾璁」を外した】

記・紀神話で天皇家の始原説話の中で最も重要な神器であるはずの「珠」を

なぜ大和朝廷が律令・神祇令で天皇のレガリアから外してしまったのか、

大きな矛盾をはらんでおり古代史を考える上で

目をつぶることができない重要なテーマである。