一日に何かしらは運動をするよう心がけているのだけれど、今日はなんだか気がのらず、それをすると近所の居酒屋が閉まってしまうこともあって帰宅するなり駅前に出かけた。

 

最近よく行く店で、厨房とうまく段差で隔てたカウンターがいい感じにパーソナルな空間を守ってくれているような気がして気に入っている。というのは、僕の場合は飲みながら誰かと会話したいわけでも常連さんと仲良くなりたいわけでもなくて(誤解を恐れていうと会話が嫌なわけではない、話しかけられれば嬉しいし、楽しく応える)、飲みながらじゃないとやっていられない単調な仕事をダラダラ進めたり、ブログや論文の草稿を練ったり、若い頃書いてみたかった小説をノートに認めてみたり、そういう時間だからだ。

 

とはいえ、みんながわちゃわちゃ楽しんでいる空間に一人1950年代に出版されたような黄ばんだ小説を広げていたり、ちょっとサイズの合わないノートPCを置くのはなんとも座りが悪いなと思い立ち、iPadほしいな、と思い出した。それで2ヶ月近く渋った挙句結局購入し、今はそれに本をスキャンして持ち歩いて、居酒屋で飲みながら読み、文章を書き、としていた。

 

今日も30ページばかり本をスキャンして持ち歩いき、ビールと胡瓜の一本漬けでちんたら読んでいたのだけれど、ふと(あれ、おれ先週もこの店来てるな)と急に思い出した。今日はカウンターの右端、その日、つまり先週の土曜日の夜はカウンターの左端だった。確かそこで若くてしっかりしたメガネの(細目の)男性定員に「お通しどうしますか、もしかしてIさん、めかぶダメじゃないですか」と聞かれた。

 

その通りで、その店では時々お通しにめかぶが小皿にもちゃっと出てくるだ。そしてそれが僕は苦手で、ちょっと挑戦して箸の先で拾って口先でつまんでみたもののやっぱりダメで、ほとんどそのまま残してしまう。店員さんはいつからか「Iさん」と名前を覚えてくれるような気の遣いなので(ボトルキープしているからなのだけど)いつか気付かれる

かもしれない、先にこっちから苦手な旨を申し出ようと思っていたところだったのが、不精してついに先にいわれてしまったのだ。

 

そんなことでお通しはめかぶ以外を出してくれたのだけれど(ちなみに今日はしらす大根おろしだった)、その記憶が不意に思い出されたのだ。同時に、女性の若い店員からも「今日はテストの採点じゃないんですね」と話しかけてもらったことや、iPadを傍に置いてブログの更新をしようとして途中で力尽きたことも思い出した。

 

なぜ今日店に至るまでその記憶がなかったのかというと、要するに土曜日は泥酔して記憶をなくしていたからだ。そういえば信じられないぐらいの千鳥足で家路についた記憶はあって、ふらっふらになりながら犬のペットシーツを交換していた。居酒屋に行く前は草野球チームの飲み会で、二次会のカラオケまでノンストップでハイボールを飲み続け、稀に見るハイテンションで歌っていたから、完全に勢いがついていた。みんなと別れて一人になってからこの店に立ち寄り、ビールを頼み、確かキープしている黒霧島を頼んでいた。

翌日は朝から夜まで墓参りの予定で都内を車で走り回り、そのまま週明けの仕事を迎えていたから、もう完全に忘れ切っていた。

 

今日の帰り際、メガネの男性店員(しっかりしている)に「僕、土曜日来たと思うんですけど」と聞いてみると、

 

「来ましたよ、確か金曜日も」

「金曜日も!」

「はい、えーと確か僕が遅い時間の出勤だったんで…はい」

 

そういわれると、確かにカウンターで飲んだのとは別に後方のテーブル席に座っていた記憶がある。隣の席に作業着姿の男性が3人で飲んでいた。

 

「確か僕何か書いてました」

「ああそう、PC開いてましたよ。日本酒飲まれてました」

「日本酒」

「二杯」

「二杯!」

「珍しいなと思いました」

 

そういわれると、確かにメニューから何か二種類選んだ記憶があって、なぜ二種類かというと、一杯頼んだところグラスにも升にも、升の下の小皿にもたっぷりと注いでくれたのが嬉しくて、もう一回もう一回(ミスチル)となったものだった。ドウゾナミナミツガセテオクレ(井伏鱒二)。

 

何せ金を払った記憶もないものだから、「何か迷惑かけてないかとばかり」というと店員さんは「いやいや!そんなのはないですよ」といってくれた。しかしそれはわからない、何せ覚えていないし、実際迷惑かけていないにしても泥酔して記憶をなくしていることは事実なわけだから今後どうかは別の話だ。

 

疲れてたんだな、と少しばかし言い訳しつつ、しかしまあ最近飲みすぎかもな、と反省もしつつ、いま帰宅してビールを飲みながらこれを書いている。