2008/08/12
タバコはきらい。
そう言うとあなたは顔だけ面倒くさそうな風にしてタバコを燻らす。
『しかたないだろ,一種の依存症なんだから』
だってキレイにしてきた髪や大事に着ているお気に入りの服や洗えないバッグまで,
マルボロのにおいになるなんてイヤじゃない。
キャスターでもちょっとイヤなんだから,煙がでるならどんなに甘い香りだってきらい。あたしは消えないタバコを灰皿のなかで弄ぶ。
『おんなじものへの依存症の人がごまんといるなんて変なの』
でもあなたはしょうがないから好き。
『吸ってしまったもんはしょうがない。』
タバコをどんな風に吸いだしたかなんて男は言わないけど,
当然といわんばかりに自然にタバコを吸うあなたはきらいじゃないから
昔のことはやっぱり知らないでいいと思える。
『あたしにも吸わせて』
『吸えないんじゃなかった?』
あまりに落ち着いて言うからタバコを無理矢理拝借して口にくわえた。
勢いでくわえたのはいいが,吸い方なんかしらないから戸惑ってしまい吸ってしまおうという勢いは萎えてしまった。
そのまま動かず止まっていると,それをとりあげられた。
少し口に入った煙は熱かった。
『タバコにまで嫉妬するのか智絵は』
シャボン玉を吹くときのストローをもつ手のような形までそのままのあたしを優しくにらむ。
吸っては吐くその行為のどこが格好よいのか知る由もないが,
嫉妬や羨望に近いものを彼自身にわずかながら感じるのは相違ない。
恋人同士になってずいぶん経ち,お互い見えていなかったものまで理解しあい,二人の間には夫婦のような雰囲気さえあるかもしれない。
しかし,女心にはそんな安定しすぎた恋ほど崩壊を恐れたくなるものであるから,そうそう話が上手い女でなければ言葉を選びに選んでことば数が減ったりする。
それと夫婦のように言葉がなくても解りあっている二人とは少し違った中身なのだ。
『少しタバコを控えたら?』
『これでも努力してる』
『一日どれくらい吸ってるの?』
『5本くらいかな』
世に言うヘビースモーカーの彼だから,5本はかなり少ないほうだ。
『我慢してるんだ』
『結構つらいよ』結構真顔のあなた。
でも,結局は自分のことが先になっているあたり,これは単なる恋なんだとおもう。
相手のことを思っているのもひとつあるけれど,なにより自分が嫌だと思うから。うるさく言うのは嫌われるからやめとくけど,察してほしい。
あたしはわがままで独りよがりなタバコ嫌い。
タバコごと好きになれないのは事実だけれど。
あーあと残念そうにため息をついたらあなたもちらっとあたしを見る。
いうなれば頭のてっぺんからつま先まで,煙なんかに詰られるんじゃなくて優しくキスをしてほしいのに
その前にタバコなんて興ざめなのよ。
『タバコとあたしどっちが好き?』
『タバコ?』
『冗談やめてよ』
タバコのにおいで脱力して,だんだん面倒くさくなってくる。
吸ってる本人もタバコで怠くなるって言ってたっけ。
わがままも適度ならかわいいと思うの。最近あなたがいなくても平気になりたいともおもうけど。
食事がすんで,薄暗いバーに足を組んで並んで腰掛ける。なんだかすっかりお馴染みになって,マンネリなんて言葉が合いそうだけれど,昔憧れたデートそっくりで気に入ってる。
『最近なんか趣味やってんの』
あなたが聞く。
『写真。写メールで』
『初耳だな』
『そう?』
『それでどんなもん撮るの?』
さきほどのタバコがくしゃくしゃと灰皿に丸められる。
『空が多いかな』
『空なんか撮ってどうすんの』子供じゃあるまいし,といいたそうに苦笑する。
『いいじゃない。最近の携帯は画素数が多くて画像がすごく綺麗なんだから。感動ものでしょ』
携帯をパカッと開いて彼に待受画面を見せる。
『ふーん』
『こういうのインターネットにアップしてまとめるの,楽しいわよ』
『載せるの?』
『別に誰も見てないと思うけどね』
『なんだそりゃ』
確かに意味がない行動かも知れない。
ネットのサイトに画像を貼り付けて喜んでるなんて子供っぽいかも。
少ししゅんとするあたしの腰に腕を回してあなたは『いいんじゃない』
『うそ』あたしはメールの返信に勤しんでつんとした。それも嘘だけど。
『じゃああなたの理想の女の趣味ってなに?』
ジャズのBGMが絶妙な音量バランスでかかっている。カチカチとメールを打つ。
あなたはちょっと間を置いて
『写メール』とふざけた笑顔を向けた。
『ほんとはなに?』わざと怪訝そうな表情を作る。
『オレ的には料理かな。でも智絵は料理できるから』
まだ腰に腕を回したままで,グラスの焼酎を煽る。
『おまえの料理は誰にも食べさせたくないね』
これは彼なりに精一杯甘い言葉なのだろう。
『そう?』
『好物だよ。街角で好きな食べ物なんですかって聞かれたら,彼女の料理ですって答えるね』
恥ずかしくてバカップルかとつっこみたくなる。あたしもちょびちょび飲んでいたワインを大きな一口で飲み込む。
この街角のバーはまさしく大人の雰囲気で,50代くらいで風格のあるバーテンのおじさんと,その後ろには無数のワインやウイスキー,焼酎のボトル。カクテルも作る。
若い頃と違って,切羽詰まった息苦しい関係は脱しているように思う。煙草の煙の濛々としたバーのような雰囲気。
たばこは少しも好きになれそうにないが,嫌悪の気持ちは全くなくなっていた。
彼の一部と認めた暁には愛さねばならないのだろうか。
アルコールが少し回ってきた思考にもその小さな葛藤はいつまでもしこりとなってうずくまっている。
でもあたしもあなたももうそんなに若くないのよねと一人,小声で言うと,彼もそうだなと小さくうなずき,鼻を鳴らして笑う。
小さな紙のおあいそ。会計は現金で彼が払い,すぐその手であたしの腰に手を回す。
そしてあたしたちはいつものようにそのバーをあとにする。
こもった生暖かい空気から惜しまれながら。
そう言うとあなたは顔だけ面倒くさそうな風にしてタバコを燻らす。
『しかたないだろ,一種の依存症なんだから』
だってキレイにしてきた髪や大事に着ているお気に入りの服や洗えないバッグまで,
マルボロのにおいになるなんてイヤじゃない。
キャスターでもちょっとイヤなんだから,煙がでるならどんなに甘い香りだってきらい。あたしは消えないタバコを灰皿のなかで弄ぶ。
『おんなじものへの依存症の人がごまんといるなんて変なの』
でもあなたはしょうがないから好き。
『吸ってしまったもんはしょうがない。』
タバコをどんな風に吸いだしたかなんて男は言わないけど,
当然といわんばかりに自然にタバコを吸うあなたはきらいじゃないから
昔のことはやっぱり知らないでいいと思える。
『あたしにも吸わせて』
『吸えないんじゃなかった?』
あまりに落ち着いて言うからタバコを無理矢理拝借して口にくわえた。
勢いでくわえたのはいいが,吸い方なんかしらないから戸惑ってしまい吸ってしまおうという勢いは萎えてしまった。
そのまま動かず止まっていると,それをとりあげられた。
少し口に入った煙は熱かった。
『タバコにまで嫉妬するのか智絵は』
シャボン玉を吹くときのストローをもつ手のような形までそのままのあたしを優しくにらむ。
吸っては吐くその行為のどこが格好よいのか知る由もないが,
嫉妬や羨望に近いものを彼自身にわずかながら感じるのは相違ない。
恋人同士になってずいぶん経ち,お互い見えていなかったものまで理解しあい,二人の間には夫婦のような雰囲気さえあるかもしれない。
しかし,女心にはそんな安定しすぎた恋ほど崩壊を恐れたくなるものであるから,そうそう話が上手い女でなければ言葉を選びに選んでことば数が減ったりする。
それと夫婦のように言葉がなくても解りあっている二人とは少し違った中身なのだ。
『少しタバコを控えたら?』
『これでも努力してる』
『一日どれくらい吸ってるの?』
『5本くらいかな』
世に言うヘビースモーカーの彼だから,5本はかなり少ないほうだ。
『我慢してるんだ』
『結構つらいよ』結構真顔のあなた。
でも,結局は自分のことが先になっているあたり,これは単なる恋なんだとおもう。
相手のことを思っているのもひとつあるけれど,なにより自分が嫌だと思うから。うるさく言うのは嫌われるからやめとくけど,察してほしい。
あたしはわがままで独りよがりなタバコ嫌い。
タバコごと好きになれないのは事実だけれど。
あーあと残念そうにため息をついたらあなたもちらっとあたしを見る。
いうなれば頭のてっぺんからつま先まで,煙なんかに詰られるんじゃなくて優しくキスをしてほしいのに
その前にタバコなんて興ざめなのよ。
『タバコとあたしどっちが好き?』
『タバコ?』
『冗談やめてよ』
タバコのにおいで脱力して,だんだん面倒くさくなってくる。
吸ってる本人もタバコで怠くなるって言ってたっけ。
わがままも適度ならかわいいと思うの。最近あなたがいなくても平気になりたいともおもうけど。
食事がすんで,薄暗いバーに足を組んで並んで腰掛ける。なんだかすっかりお馴染みになって,マンネリなんて言葉が合いそうだけれど,昔憧れたデートそっくりで気に入ってる。
『最近なんか趣味やってんの』
あなたが聞く。
『写真。写メールで』
『初耳だな』
『そう?』
『それでどんなもん撮るの?』
さきほどのタバコがくしゃくしゃと灰皿に丸められる。
『空が多いかな』
『空なんか撮ってどうすんの』子供じゃあるまいし,といいたそうに苦笑する。
『いいじゃない。最近の携帯は画素数が多くて画像がすごく綺麗なんだから。感動ものでしょ』
携帯をパカッと開いて彼に待受画面を見せる。
『ふーん』
『こういうのインターネットにアップしてまとめるの,楽しいわよ』
『載せるの?』
『別に誰も見てないと思うけどね』
『なんだそりゃ』
確かに意味がない行動かも知れない。
ネットのサイトに画像を貼り付けて喜んでるなんて子供っぽいかも。
少ししゅんとするあたしの腰に腕を回してあなたは『いいんじゃない』
『うそ』あたしはメールの返信に勤しんでつんとした。それも嘘だけど。
『じゃああなたの理想の女の趣味ってなに?』
ジャズのBGMが絶妙な音量バランスでかかっている。カチカチとメールを打つ。
あなたはちょっと間を置いて
『写メール』とふざけた笑顔を向けた。
『ほんとはなに?』わざと怪訝そうな表情を作る。
『オレ的には料理かな。でも智絵は料理できるから』
まだ腰に腕を回したままで,グラスの焼酎を煽る。
『おまえの料理は誰にも食べさせたくないね』
これは彼なりに精一杯甘い言葉なのだろう。
『そう?』
『好物だよ。街角で好きな食べ物なんですかって聞かれたら,彼女の料理ですって答えるね』
恥ずかしくてバカップルかとつっこみたくなる。あたしもちょびちょび飲んでいたワインを大きな一口で飲み込む。
この街角のバーはまさしく大人の雰囲気で,50代くらいで風格のあるバーテンのおじさんと,その後ろには無数のワインやウイスキー,焼酎のボトル。カクテルも作る。
若い頃と違って,切羽詰まった息苦しい関係は脱しているように思う。煙草の煙の濛々としたバーのような雰囲気。
たばこは少しも好きになれそうにないが,嫌悪の気持ちは全くなくなっていた。
彼の一部と認めた暁には愛さねばならないのだろうか。
アルコールが少し回ってきた思考にもその小さな葛藤はいつまでもしこりとなってうずくまっている。
でもあたしもあなたももうそんなに若くないのよねと一人,小声で言うと,彼もそうだなと小さくうなずき,鼻を鳴らして笑う。
小さな紙のおあいそ。会計は現金で彼が払い,すぐその手であたしの腰に手を回す。
そしてあたしたちはいつものようにそのバーをあとにする。
こもった生暖かい空気から惜しまれながら。