「オオルリ流星群」

 伊与原新


📝家業の調剤薬局の経営に苦しんでいる久志は、高校の同級生の彗子が地元に帰ってきていることを知る。彗子は学年一の秀才で国立天文台に勤めていたが、退職を迫られ、地元で自分用の天文台を建てようとしていた。


このことを機に、高校3年の文化祭で久志や彗子とともに、空き缶を使ったオオルリ柄の巨大タペストリーを制作したメンバーが集まるようになる。

修はジャーナリストを目指し東京で働いていたが、弁護士に転職すべく、司法試験のために勉強している。

獣医になるのが夢だった千佳は、家庭の事情で叶わなかったが、現在は中学の生物教師。

機械いじりが好きだった和也はうつ病になり、メーカーを退職して以来、三年間引きこもりだそうだ。

だが、タペストリー作りの発起人であった恵介は、なぜか途中でメンバーを抜け、卒業後に自殺してしまっていた。


またこの頃、地元のどこかからミニFM(個人でできる、狭い地域での小さな放送局)で音楽が放送されていることがわかる。はっぴいえんど、来生たかお、大瀧詠一などの70年代ポップス。どれも和也が好きな選曲ばかりだ。久志達は、ミニFMを流しているのは和也なのではないかと考え始める。


📝いわゆる就職氷河期世代。久志のように「なんとなく働いてはいるけれど、いつまでも報われない」という、虚しさを共有する世代ではないかと思います。

その彼らが高校時代について、紋切り型の懐古主義で、「あの頃は良かった」と思っているでしょうか。


たしかに、協力してタペストリーを完成させ、ともに達成感を味わった仲間です。けれどもそれぞれの心の中では、羨望や嫉妬や無力感といった、青く苦い感情が渦巻いていました。

しかし28年経って集い、真実をさらけ出すことになって初めて、本当の友情で結ばれるのです。


DIYで天文台を作っていくところは、まるで文化祭の続きのよう。そして、BGM的に登場するミニFM放送の、ラストシーンでの選曲…素敵です✨


輝いていたように見えるあの頃も、誰もが悩んでいて、今もまだ迷い続けている。

そこはかとない虚しさを抱えているのはあなただけではない。

そんなメッセージを感じました。


🗓5/24 読了