「おいしくて泣くとき」

 森沢明夫


📝中3の心也の実家は、父が切り盛りする「大衆食堂かざま」。ここでは貧困などの事情から家で食事がとれない子供達のために、無料の「こども飯」を提供している。

「こども飯」を食べに来るのは、心也の幼なじみでありクラスで仲間外れにされている夕花と、その異母弟の幸太。それに同級生の金髪の問題児、石村などだ。

石村はあることをきっかけに心也に心を開き始めるが、二人は一緒にいる時、夕花が義父に暴力を受けているのを見てしまう。石村は酔って荒れる義父を力づくで抑え、その間に心也は夕花を連れて、亡き母との思い出の場所である浜辺の町へと向かう。


この話に並行してもう一軒、「カフェレストラン・ミナミ」という店も登場する。こちらもこども食堂としてチャリティーメニューを出している。

しかし店の正面の道路で交通事故が起こり、突っ込んで来たダンプにより店舗が大きな損壊を受けてしまう。ゆり子とマスターは、夫婦で細々やっているこの店を、もうたたむしかないのかと絶望する…。


📝スリリングなシーンの描写と、伏線回収が素晴らしくて、一日で読んでしまいました。


私的に響いたのは、心也と夕花の逃避行のシーン。

日が傾き夜が更け、朝が来れば義父の居る惨めな現実に帰るのだとわかっていても…夕花は心也の優しさを、懸命に心に刻み込もうとするんです。


夕花は二人で見る海の色を、ブルートパーズに例えました。夕花の母が、義父と再婚する前から大切に持っていた指輪の、宝石の色です。

たった一粒の輝きが、どんなに辛い目にあっても、自分が堕ちないように繋ぎ止めておいてくれる。おそらく母にとってはそれがブルートパーズであり、夕花にとっては心也だったのかなぁ、と。

「恋ではないけれど一緒にいたい」プラトニックな感じ。「尊い」の一語に尽きますね…よだれ


二つの「こども食堂」の話の結末が見えた時。

優しさの連鎖に、満たされた気持ちになります。


🗓5/16 読了