「ライオンのおやつ」

 小川糸


📝瀬戸内海の小島にあるホスピス「ライオンの家」。ここで週に一度開かれる「おやつの時間」には、入所者がリクエストした「思い出のおやつ」が再現され、皆に振る舞われます。
がんで余命宣告され、ここを終いの住みかと決めた雫は、おやつの思い出を通して皆の人生の一部に触れながら、死と生を考えます。

戦時中の台湾での子供時代を思い出す「ピーナッツスープがけ豆花」。
学生時代の一人旅のフランスで出会い、コーヒー屋になることを決心した、「カヌレ」。
昏睡状態になってなお「生きることを諦めない」女の子のために、母親が作った「アップルパイ」。
いつも母に可愛がられる妹に嫉妬していた姉が、母と二人きりの時間に、妹には内緒で母と作った「牡丹餅」。
男一人で育ててくれた父のために、はじめて作ったお菓子「ミルクレープ」。

やがて雫も、甘く幸せな思い出の夢を見ながら、生の向こう側へと静かに旅立ちます。


この物語は、雫の視点で綴られています。
最初の方は、場面の転換もわかりやすく、整然とすすみます。しかし途中から、回想や、夢で見た内容が多くなってきます。
つまり、雫が弱ってきてからは眠っていることが多くなり、現実が空想に取り込まれ、その空想が幕を閉じたときに一生も終わる、ということなのだと思います。

私の母もがんで、2年近く入退院を繰り返しましたが、最期はただただ眠り続けていました。もしその時、この物語と同じように、楽しかった思い出やおいしい食べ物のことを夢に見ていたのであれば…見送った側としても多少救われるかな、と感じます。

おやつは間食であり絶対に必要なものではないですが、そこに介在する「思い出」に、栄養があるのでしょうね。

栄養となる「おやつ」、皆さんは召し上がりましたか?

🗓5/2 読了