「食欲の秋」が、終わろうとしています
といっても、レストランや居酒屋はどこも満員。昔にくらべると、「うまいもん」がわんさかある時代です――。テレビをつけると、あちこちの局で「料理番組」をやっています。具材を並べた前で先生方が和食から洋食、中華などの作り方を指導しており、また店の紹介もあります。それはそれで結構なんですが、こうなってくれば戦後、何もなかった時代が逆に懐かしく思えたりするんですね。人間っていうのは。
ところで、だれにも「好物」というものがあるはずです。
そこでふと、私は考えたのです。そうだ、<私の大好物>というテーマでテレビ番組をつくれば面白い――。「大好物」を目の前にして食したり、それぞれの「人生を振り返る」というのは、聴く人見る人にとって興味津々でしょう。とくに亡き両親や祖父母との食卓風景などの話は、涙をさそう場面になるかも。
「食」に関した、そのような番組を今まで見たことがないので高視聴率間違いなし、と予想するのですが、どうでしょうか。出演者は、有名人だけではなく視聴者も参加すればぐっと幅が広がります。
まいにち、見なれた先生方の「料理番組」ばかりなんですから、これはちょっとしたスパイスになるかも。
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さてさて、そこで――
「あなたの大好物は?」と聞かれたら、私は即座にこう答えます。
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①すぐき ②海苔巻き寿司 ③千枚漬け ④龍馬漬け ⑤柴漬け ~
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①③④⑤はすべて漬物です。それも「辛い」というより、「酸っぱい」といわれるものです。そうなんです。②の海苔巻き寿司を含め、私は「酸っぱい」ものが大好物なんです。それも、顔をゆがめるくらい酸の効いたものがいいのです。
そこで、それらについて順に書き綴ってみたいと思います。
■すぐき
すぐきといえば、京都市内では「なり田」さんの名前を上げなければなりません。店は上賀茂神社のすぐそばにあり、私もたまに付近を散策するときは、かならず店に寄っていろんな漬物を買って帰ります。
では、ちょっと長くなりますが、まず<京漬物「なり田」さん>の
ホームページを引用させてもらいます。
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京都の漬物 御すぐき處 <京都なり田>
○● おいしい漬物「すぐき」について
「すぐき漬け」といえば、千枚漬、しば漬と並び、京都の冬の代表的なお漬物です。これらは「京都三大漬物」と呼ばれ、おいしい冬の味覚として京都をはじめ、全国の方々に愛されてきました。
「すぐき漬け」は「すぐき」と「塩」だけで漬け込んで作られ、乳酸菌による発酵作用による味わい深い酸味が特徴です。
昨今では健康ブームもあり、おかげさまで益々知られることとなりました。しかしながら、そもそも原料である「すぐき」自体が京野菜であるため、京都以外の方にとってはあまり馴染みのない漬物かもしれません。
「すぐき」がどこでどんな風に栽培され始めたのか、また、おいしい「すぐき漬け」とはどのような漬物なのか、ご紹介させていただきます。
○● すぐきとは
「すぐき」は【酸茎】とも書き、別の名ではスグキナ(すぐき菜)、スイクキ(水茎)、カモナ(賀茂菜)とも呼ばれています。なお、京都では「すぐき」といえば野菜としてのすぐきだけではなく、「すぐき漬け」のことも意味します。
「すぐき」は、アブラナ科の二年草でカブの一系統。根の部分は短い円錐形で、長さは20㎝程度。大根を短くしたような形をしています。
葉は肉厚で濃緑色をしており、根の大きさの割には大きな葉をしています。花は「アブラナ科」だけに、菜の花とよく似た花を咲かせます。
○● 起源と歴史について
「すぐき」の歴史は現在から400年ほど昔の桃山時代にまで遡ります。
上賀茂神社の社家(しゃけ:神社に仕える氏族やその家)が賀茂の河原で見つけたカブに似た珍しい植物を持ち帰って植えたのが始まりだという説や、御所から賜った植物を植えたのが始まりだという説。諸説ありますが、いずれにしても上賀茂神社の社家の間で栽培が始まったとされています。
最初は社家の屋敷内のみで作られていましたが、江戸時代末期頃からは一般の農家でも作られるようになりました。ただし、その頃はまだ一般の畑でも自家用や贈答用としてわずかに栽培する程度だったようです。一般に普及しはじめるのは明治維新以降です。
○● すぐき漬けは希少価値の高い「高級贈答品」
「すぐき漬け」は江戸時代初期の頃から上賀茂の特産漬物として、毎年初夏の頃になると賀茂社家の手によって洛中(京中)に贈られるようになりました。御所をはじめ公家の諸家や文人墨客(詩文・書画などをたしなむ人)など、上層階級の人々から「夏日の珍味」として賞味されていたと言い伝えられています。(この頃、すぐき漬けは夏前に漬け上がる漬物でした。)
江戸中期以後は、「すぐき漬け」の贈答が上賀茂社家の間で年中行事として慣例化し、社家に残る古文書にそのことを示す文章が書かれています。「すぐき」は、料理の食材として使用することが難しく、漬物になるべくして生まれた野菜であるといえます。
○● すぐき漬けと乳酸菌
「すぐき漬け」の中には数多くの乳酸菌が含まれています。また「すぐき」を作る「室」や樽の中に長年住み着いている乳酸菌とが混ざり合って、その家独特の味を作り出しています。その為、「すぐき漬け」の味は、上賀茂以外の土地で作られた物とはっきり違います。また同じ上賀茂の土地で作られた物でも味が微妙に違うのも、この乳酸菌がかわっているからなのです。
「すぐき漬け」に含まれている乳酸菌のなかでも、「ラブレ菌」は、近年大変話題になりました。「ラブレ菌」とは、「京都パストゥール研究所」の岸田網太郎博士により「すぐき漬け」から発見されたものです。体内のインターフェロン(ガンやウィルスから身体を防御する因子)生産能力が高まり、安全で副作用のない免疫能力助長剤としての可能性があることが研究で明らかになりました。また、整腸作用により、下腹部のふくらみを抑える効果があるとTVなどで紹介されました。
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そうなんです。「すぐき」は歴史と伝統を備えた食べ物(漬物)なのです。そして、最近話題になっているのが「ラブレ菌」です。整腸作用があり、免疫能力を助長すると…。
それとは別に、最近読んだ本に「すぐきは京都の公家の好物で、上賀茂あたりの農家に作らせた…」と書かれていました。ハハン、私がこれほどすぐきが好きなのは、「公家のDNAが呼んでいるのかも」とヘンな納得をしたのです。
正月、伏見稲荷大社の裏参道が楽しみだった…
これまでの人生で、いちばん「美味かった」ものは、このすぐきです。それも正月に、京都・伏見稲荷大社裏参道の入り口で売られていた「樽出し」のものでした。毎年、上賀茂あたりの農家から出張して一週間ばかり売られていましたが、寒風にさらされながら大原女のような絣の着物姿で商う家族総出のしごとでしたね。
家族の中央にふくよかなお婆さんがいて、縁石にデンと座っておられたのが印象的でした。大勢の参拝客が行き交います。そんな中、樽の中に手を入れ、発酵して、よ~く漬かったすぐきを上から順に取り出すのです。
30年くらい、いやもっと続いていたでしょうか。まさに、正月の風物詩でした。お参りを済ませた人たちが帰りに、ひとつ、ふたつと買い求めていました。
私もそれをいくつか買って、正月のおせち料理と一緒に食べるのです。かみしめると、「じわ~っ」と、えもいわれぬ酸っぱい味が口の中のすみずみまで沁みわたっていきます。「うまい!」「うまい!」
ところで最近は、百貨店やスーパでも売られていますが、もう、あのすぐきは手に入りません。いまは“懐かしい思い出”となってしまって、私の口には届かないのです。つまり、その場での樽出しではなく、ビニールに包まれたものが店頭に並んでいるだけなのです。たしかに日持ちはするのでしょうが、それには、あの「じわ~っ」とした汁が出て来ないのです。
すぐきは、「発酵した汁」が命なのです。ですから、本物のすぐきとはもう何十年もめぐりあっていません。残念至極、寂しい限りです。
(記 2018.11.29 平成30)