ゆうべのことです。
プールで泳いだあと、私鉄の電車に乗って最寄り駅で降りた私。ほかほかとした体温も2月の冷気には勝てず、駅のすぐ横にある道路(府道)を家の方に向かって一目散で歩き始めました。
幹線の府道は歩・車道分離で、幅は20メートルくらい。中央を南北につらぬく車道は片側二車線の計四車線。そして、両端にはそれぞれ幅3メートルほどの歩道がついています。ガードレールはところどころにあるのですが、現在の日本の道路事情を見渡して、ごくごく平均的な施設状況です。
そんな府道の、左側の歩道を(南行して)私は家に向かっていました。5分ほど歩いたところに府道と交差する市道があります。“事故”がそこで起こりました。
あっという間に、あたりは暗くなってきました。私は前を見て、歩道から(南に向かって)交差点の信号を確認しました。歩道も車道も進行方向は「青」です。まだ交差点までは20メートルくらいありますが、走れば渡れるかもしれません。でも、走りません。いつも自分に「あわてるな」と戒めているからです。
私のすぐ横を南行する走行車線上のクルマは、まっすぐ通り過ぎて行くか、交差点で横断歩道を歩く人に注意しながら(府道から市道へ)左折しています。また、追い越し車線上のクルマはビュンビュン、スピードを上げて走って行きます。ここまでは何の問題もありません。
一方、私が居る位置から見れば、中央分離帯の右前方(反対車線)に停車して、右折して府道から市道に向かおうとするクルマが何台か方向指示器を点滅しながら、クルマ側から見れば反対車線(私が居る側)を直進するクルマの流れが途切れるのを待っています。
その時です。(私が居る側)を直進するクルマが途切れました。待機中の右折車が3台連なって右折し始めたのです。といっても(府道側の)信号はまだ「青」です。私がこれから渡ろうとする横断歩道の信号も、まだ「青」のままです。急げば渡れるのでしょうが、反対車線からの右折車が入ってくるのが見えたので渡りませんでした。
目の前を右折車の一台目が通過し、二台目が通過しようとしたその時でした。何があったのか分かりませんが、一台目が急にストップしてしまったのです。そのため二台目は前に進めず、人が渡る横断歩道上で止まりました。つづいて来た三台目は前に進めず、(私のすぐ横で、南行の)走行車線上に止まってしまったのです。
その時“事故”が起きたのです。
(私が居るすぐそばの)走行車線を、駅(北)のほうから猛スピードで一台のクルマが走ってきたのです。信号は間もなく「黄」の点滅に移りそうでしたが、まだ「青」でした。スピードがどれくらい出ていたのかクルマを運転しない私には分かりませんが、ルール上からすればOKだったといえます。信号はまだ「青」でしたから。運転手は一刻も早くそこを通過しようとしたに違いありません。
そして、おどろきの光景が私の目の前に広がったのです。
「ああっ!」と私は大声を上げました…。
「ドカーン」とものすごい地響きとともに大音響が鳴り響いた――と、誰もがそう思ったでしょう。そして、クルマ2台の躯体がバラバラになって宙を舞い、中に乗っている人が車外にはじき飛ばされる。私の脳裏にはそんな光景がよぎったのです。運悪く私はクルマの下敷きになって……そばにいた人も、みんな、おしまい。
ところが、「奇跡」が起きたのです。猛スピードで直進してきたクルマの「軌跡」はこうでした。
完全に「衝突!」と私が思ったその時。
猛スピードで走ってきたクルマの運転手は、走行車線上に止まっているクルマの4~5メートル前で思いきり右にハンドルを切り90度クルマを回転させて、相手の車体に接触するくらいまで接近したものの激突を回避したのです。そして、数メートル右に進んだ追い越し車線上に入ったとたん、こんどは左に90度クルマを回転させて追い越し車線上に出ました。そして、そのまま何事もなかったように走り去ったのです。
この件だけを見れば、凄惨な事故にはならなかったのは幸いでしたが、もし、右にハンドルを切った際、追い越し車線上に後ろから別のクルマが来ていれば、こんどはそのクルマと衝突していたでしょう。
“事故”後、走行車線上で止まったクルマを運転していた中年女性が、市道の片側にクルマを止め、真っ青な顔をして車外に出てきました。「死んだかも」と思ったのかもしれません。すべてを目撃していた私も、しばらく口がきけませんでした。寿命が縮みました。
+
このような“事故”は「事故」扱いにはなっていません。むろん、警察も知りません。しかし、数字には表れないこのような“事故”は毎日、全国で起きているはずです。膨大な数になるでしょう。「ああ、もう私は家の外に出たくない」
最後に。あのアクロバットのような運転をして走り去った男(?)は、いったい何者だったのか。
~ つづく ~