*本・文学・ことば(5) 村上春樹と「幽明の世界」 ~つづき~ | のむらりんどうのブログ       ~君知るや ふたつの意識~

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2002年9月22日の早朝。目覚めて布団の上に起きあがった瞬間、私は「光の玉(球)」に包まれたのです。以来、「自我」(肉体と時間に限定されたこの世に存在する私)と、「真我」(肉体を超えて永遠に宇宙に実在する私)の、ふたつの意識を持って生きています。

 

 

 ところで、2012年(平成24)9月11日には、尖閣諸島の帰属に関して対立している日本と中国との間で大きな問題が発生しました。日本政府はそれまで私有地であった尖閣諸島の3島(魚釣島、北小島、南小島)を20億5千万円で地権者から買い取り、国有化したのです。これに対し、中国や台湾が猛反発する事態に陥ってしまいました。

 

これに関連して、9月28日の朝日新聞は次のように報じています。

                 (朝刊1面から引用します)

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日本政府の尖閣諸島国有化で日中の対立が深刻するなか、北京市出版当局は今月17日、日本人作家の作品など日本関係の書籍の出版について口頭で規制を指示。北京市内の大手書店で、日本関係の書籍が売り場から姿を消す事態になっていた。……

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この東アジアの領土をめぐる問題から派生した中国側の報復措置について、村上さんが次のような記事を寄稿されたのです。

                 (朝刊3面から一部分を引用します)

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   魂の行き来する道筋 塞いではならない

            領土問題、文化に影響憂う


                      村上春樹さん寄稿

 

 ……領土問題が実務課題であることを超えて、「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる。それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。……

 

 僕は『ねじまき鳥クロニクル』という小説の中で、1939年に満州国とモンゴルとの間で起こった「ノモンハン戦争」を取り上げたことがある。それは国境線の紛争がもたらした、短いけれど熾烈な戦争だった。日本軍とモンゴル=ソビエト軍との間に激しい戦闘が行われ、双方あわせて2万に近い数の兵士が命を失った。僕は小説を書いたあとでその地を訪れ、薬莢や遺品がいまだに散らばる茫漠たる荒野の真ん中に立ち、「どうしてこんな何もない不毛な一片の土地を巡って、人々が意味もなく殺し合わなくてはならなかったのか?」と、激しい無力感に襲われたものだった。……

 

 安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲むような努力を重ねてきたのだ。そしてそれはこれからも、何があろうと維持し続けなくてはならない大事な道筋なのだ。

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 いっときの政治状況で、人びとが紡いできた悠久の文化交流を遮断してしまってはならない、と村上さんは言います。それを「魂の行き来する道筋 塞いではならない」と指摘した村上さん。しびれる言葉ですね。これはまさに幽明分かたぬ「能」そのものであり、村上文学の神髄ではないでしょうか。

 

今年のノーベル文学賞はベラルーシのスベトラーナ・アレクシエービッチさんのノンフィクション『チェルノブイリの祈り』に決まりました。これまた重い事実を裏付ける作品です。

 

 

       (記 2015.10.21 平成27