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[1月号]
姿なき級友の一人はすでに亡く会の始めに黙祷ささぐ
事情ありて集ひ来ぬ者もいくたりか乾杯の辞にそれを織り込む
あのころは目立たぬ男子にありし級友いま溌剌と会を進める
名字捨て愛称呼び合ふこの部屋にあるものすべて中学となる
贈られし青磁の花瓶その場にて披露する師のその手あやふし
たをやかな振る舞ひはきつと幸せなる妻また母親にてあらむか
誰一人帰ることなく二次会へ向かふタクシーの中の早口
[2月号]
一人旅続くるといふ媼来て我らの席にてしばし語らふ
瀬戸内の静かなる地に生活を持つとか言ひて媼は行けり
はるか遠く山の斜面に陽だまりを落として比叡の秋の夕暮れ
ロープウエーケーブルカーを乗り継ぎて没日も近き八瀬に着きたり
せせらぎに合はせゆくごと落ち葉ひとつ流れを変へて川面を下る
[3月号]
元旦の習ひのひとつ駅売りの新聞各紙すべて購ふ
地下鉄の客ともなりて正月を北野天神へ家族と向かふ
地下鉄の駅を上がれば背後より北山おろしの冷たき風吹く
暖かき正月はここ二三年天満宮に梅ほころびて
運よくもあはく射し来し日光にこがね増すごと金閣の映ゆ
いにしへの贅を見せるもまた良きか子ら金閣を見て感嘆す
耀ける金閣の美はいかならむ印象与ふるか子らの心に
[4月号]
開戦を告ぐる共同電のアナウンス編集局に響き渡りぬ
部長宅に至急電話を掛けてゐる我が声低く意外に冷静
号外の原稿待つもまだ着かず人の揃はぬ時間にあれば
資源なき我が国と緯度ほぼ同じ中東諸国は石油を蔵す
鈴なりのデスク席の一人我は身に危険なく開戦原稿を受く
戦争とは草臥れるもの戦場の兵士然して新聞社の我
国境あるがゆゑに戦争連邦なるがゆゑの強権さてと考ふ