Δ短歌 実作  歌誌「ハハキギ」作品 ―07― | のむらりんどうのブログ       ~君知るや ふたつの意識~

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2002年9月22日の早朝。目覚めて布団の上に起きあがった瞬間、私は「光の玉(球)」に包まれたのです。以来、「自我」(肉体と時間に限定されたこの世に存在する私)と、「真我」(肉体を超えて永遠に宇宙に実在する私)の、ふたつの意識を持って生きています。


 

   歌誌「ハハキギ」作品 ―07― (昭和60年後期 1985

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[7月号]

 

 また一枚上着脱ぎたる通勤の道に黄色き菜の花の揺る

 

 末の子の初誕生に購ひし鯉幟けさふたりして上ぐ

 

 人波に押されて来たる西銀座薄暮のビルの時計は六時

 

 ファイルといふ柔き名前の入れ物に今日の資料を入れて歩める

 

 色恋も損得なども考へずコンピューターに拠るこの日頃

 

 鳥獣を原野に追ひし名残りかも大の男が棒持ち球追ふ 

 

[8月号]

 

 人らみな五月の空の下に来て好き顔見する広き花園

 

 知らぬ間に玉蜀黍の植ゑられてはや末の子の脚の長さか

 

 旬といふ言葉うれしきこの時季を空豆かたく旬を護れる

 

 この朝を蟻の季節と覚えたり水飲む流しに黒きひとすぢ 

 

[9月号]

 

 傘一つ電車に忘れ駅を出づ捜さむとし諦めむとす

 

 疲れゐるわが娘を見るは悲しくて早く去るべし暗き長雨

 

 やうやくに水洗化なるわが町は洛中東南京都市伏見区

 

 外つ国に逐はれ開きしこの国の百年経たる技術の水準 


[10月号]

 

 ゆらゆらと水面にくらげ昇り来て何ごともなくまた沈みゆく

 

 渚にて幼き吾子と戯むるるこのひとときを大切にせむ

 

 夢ひとつ与へたるかなこの夏を海辺に遊ぶわが子を見れば

 

 潮風に乗りて聞こゆる蝉の声民宿の午後まどろみの中

 

 朝をゆく道に一本向日葵のゆらりと立てり我が身を超えて 

 

[11月号]

 

 カレーなどいたく欲せり今朝もまた事件に明けて火照りたる身は

 

 飛行機の墜ちて話題の消えしころ妻と娘が犬に咬まる

 

 網と籠を手にする子らよその身にもやがて苦労の多からむこと

 

 サーカスの動物たちは生き甲斐を果たして持つや演技の後に

 

 親鸞の和讃も新古今和歌集も同じ時代の作ゆゑおどろく 


[12月号]

 

 休刊日の明けて出かくるわが前につね見ぬ朝の街あかりあり

 

 侍従といふ言葉は今を生きてゐてその死悲しむ記事を受けゐつ

 

 家路へと帰る人らをかき分けて朝刊づくりの仕事に向かふ

 

 親も子もすつかり馴染みになりし秋娘の幼稚園へ久々に行く

 

 月あるを忘るる我の日常に今宵は確と空を見上ぐる

 

 一劫の時の長さは知らねども月に照る雲しじまの中に

 

 盗掘を受けざる墳墓石棺は斑鳩の地にいま開かるる