夜中に体が何かに押しつぶされているのに
気づいた。重い…苦しい…誰か…
助けを呼びたいのに声が音にならない。
絞り出すように隣の部屋で寝ている母を
何度も呼ぶ。
「オ…カア…サン…タ…スケテ」
部屋を這いずって母の元へ。驚く母。
しかし体に被さる黒い影は取り除けない。
その時気付いた。そうだこんな時は念仏だ!
「なんまいだ~なんまいだ~なんまいだ~…」
何回目だっただろうか、体がふと軽くなった。
ああ解放された。
と思った瞬間に夢から目が覚めた。
数年に一度あるかないかの金縛りかぁ。
妙にリアルに覚えているなぁ。
あれ?たぶん結構声が出ていたかも?
その時、外の廊下の床がきしむ音が。
ドアを開けると心配顔の家人がいた。
家人の話。
最初は居間のテレビの消し忘れかと思った、
すぐにそれでもない外の他人でもない私だと
わかって起き上がり声の主の部屋前に来た、
何を話しているかはわからないが会話口調で
誰かと通話しているにしては感情が上下する、
これは起こした方がいいかと思案したところで
声が止み部屋から私が出てきたという経緯
だった。
内容を話して謝罪し人騒がせな夢は一件落着
したが、外に漏れた声が「なんまいだー」の
連呼でなくて本当に良かったと思う。
夜中に念仏で起こされたら私なら肝をつぶす。
それくらい夢の中では低音の地響きのような
呻き声でなんまいだ~!と叫んでいたのだから。
実はその夜の前日に父親がコロナに罹患した
報告を受けて、早朝から実家に駆けつける
ことになっていた。超高齢者の父がコロナを
悪化させれば永遠の別れになりかねない。
そんな恐れが今回の夢になったのだろうか。
覚醒後一瞬夢知らせかと不安になったが、
数時間後、ウトウトしながらも椅子に座り
クリームパンを頬張る父と実家で会うことが
できた。
滅多に夢を見ない、見たとしてもすぐ忘れる
私だが、心とはかくも正直なものだと改めて
思い知る出来事だった