「価格が上昇すれば需要は下がる」というのが常識である。

しかし、場合によっては価格が上がると需要が上がる、というケースもある。経済学ではギッフェン・パラドックスと呼ばれる現象である。

経済学の教科書では小麦粉とジャガイモの例が出ているが、現在実際に起きていることで言えば「食パン」(あのビニール袋に入ってる、「ヤマザキパン」などです)といわゆるベーカリーの「高級パン」がわかりやすいだろう。

大半の人は毎日1斤300円の高級パンを食べているわけではない。食パンに限りがあるからだ。残りは1斤100円の食パンで我慢するわけである。たとえば、1か月に高級パンを2斤、食パンを4斤食べる家庭があったとしよう。この場合、1か月に使う「パン代」は

300円x2斤 + 100円x4斤 = 1,000円

となる。

ご存じのとおり、小麦粉の価格高騰で食パンの値段が上がっている。ここでわかりやすくするために、食パンが150円(50円の値上げ)、高級パンは300円のままとしよう。

今まで通りの組み合わせで買うとどうなるか?

300円x2斤 + 150円x4斤 = 1,200円

こうなると毎月のパンにかける予算を増やすか、食べる量そのものを減らすか?実際には何が起きるかと言えば、高級パンを買う量を減らすのである


この現象は今、広く見られている。原材料価格の上昇でパスタの値段が上がっているにもかかわらず、スーパーではパスタが売れているらしい。おそらくは外食を減らしているのだろう。

私が学生時代(約20年前の話です)、経済学の授業で教わった「ギッフェン・パラドックス」は本当の貧困層が存在する社会の話で日本では起こらないだろう、と思っていたのだが、現在、現実にこうして起きている。非常に複雑な心境である。