『週刊☆読み天野』 第6回『ファビー』 | 週刊☆乃見天野オフィシャルブログPowered by Ameba

『週刊☆読み天野』 第6回『ファビー』

毎週木曜日は『週刊☆乃見』の日ハート

今週は、読みモノをお送りしマスバラ



ファビー。

いつでもカタイ立ち回り。

ファビーというのは愛称で、ずいぶん前からそう呼ばれていた。由来は知らない。古い台の名前から、というような噂を聞いたことがあるけれど、別に興味は持てなかった。

貯メダルが20万枚あったファビー。今はどうしているのだろう。30歳で、CDショップでバイトをしていて、いつもキティちゃんのサンダルを履いていた。

朝イチは日課の鬼浜宵越しの天井狙い。それと、連チャンモードでの早い放出狙い。少し浮いたらホールの隣の漫画喫茶で6時間パック。ランチを食べながら、ミナミの帝王とか静かなるドンとかの巻数が沢山出ている漫画をイッキ読みする。「もう読む漫画なくなっちゃったよ」と口癖のように言う。

漫喫でリクライニングシートに寝そべっていると、時々スロ仲間から着信がある。「キンパルのハマリ台、あるぜ」とか「銭形の800G、打つ?」だとか。

食指が動くと、漫画喫茶のパック料金を無駄にしてでも、ホールに戻る。情報をくれて、台キープもしておいてくれたスロ仲間に千円か2千円、お礼を渡して、それを打つ。大抵は、それで利益が出る。天井まで連れていかれてバケ単発でも、全く気にしない。

北斗や吉宗のゾーンや高設定には手を出さない。天井なら打つみたいだけど。

面白くもない打ち方だよ、とは私の友人の言。でも、あれをやってれば絶対負けない、とも言っていた。俺には真似できないけれど、と自嘲気味に。

夕方からはまた漫画喫茶に引き上げる。夕食にスパゲティとかハンバーグ定食を食べて、閉店20分前にホールに戻ってくる。

ハイエナできる台と、リセットが入りそうな台をチェックして、自宅に戻る。時々、漫画喫茶のナイトパックで一晩明かして、また朝からホールにいる。そんな生活がファビーの日常だった。

その頃私は素寒貧で、途方もなく貧乏だったのだけれど、どうにかしてパチスロで勝つということを覚えようと必死だった。苦労してタネ銭を掻き集めて打ちに行って負けて、師匠やその仲間の代打ちをしてバイト代を貰い、日々糊口を凌いでいた。そんな私にファビーが言ったのだった。

「勝ち方、教えてやろうか? 高設定なんて狙うからダメなんだよ。もっと効率良く、時間を有効に使わなくちゃ」

彼は親切にも、明日は鬼浜の78番だよ、と教えてくれた。今日ボーナス中に閉店してる、朝イチ8Gだけ回せば良いから、と。

彼にしてみれば、親切心だったのかもしれない。でも私は絶対にこれを上げるはず、と確信していた銭形があった。だからとりあえずお礼だけを言って、でも狙い台があるから、と言ってその台を打つことは固辞した。

バッカだなぁ、とファビーは言って、せっかく教えてやったのに、とぼやきつつ、じゃあ良いよ、俺が打つから、と言ってプイっとどこかへ行ってしまった。閉店後の駐車場での出来事である。

翌日、ファビーはその鬼浜の78番台を打って、BIGを2発取って、8Gだけ回してヤメていった。128まで回さないの? と訊ねる私にファビーは言った。

「もう2万浮いたからね。これで充分。もっと出るかも、とか高設定かもって考えは俺にはないんだ」

そのような信念というか、ポリシーの元でパチスロを打っていたファビーは、5号機時代になった今、どうしているのだろう。先日、久々に昔のスロ仲間と会う機会があり、私は皆の消息を訊ねてみた。

「そう言えばさ、ファビーとか、最近はどうしてるの? まだあの辺りで打ってる?」
「もうヤメたみたいだな。すっかり見ないよ。皆、足を洗ってる。バタバタとヤメてくよ。まぁそんなこと言ってる俺も、どうしようかって感じなんだがね」
「そっか。真面目に働いてるのかしら?」
「アイツは根が真面目だったからな。あの頃の立ち回りみたいに、仕事もやってるんじゃないか?」
「たしかに。あのカタイ立ち回りなら、パチスロをヤメても堅実な人生を歩みそうだよね」

私がそう言うと、その昔のスロ仲間はおかしそうに笑った。

「でもさ、アイツ、なんでファビーって呼ばれてたか知ってる?」
「昔の機種の名前が由来とかチラッと聞いたことあったけど…」
「そうそう。昔、裏モノでさ、ファビーチャンクってヤツがあって、アイツ、その頃はそればっか打ってたんだよ」
「ファビーが裏モノなんて打ってたんだ。想像もつかないねぇ」
「勝っても負けても10万コースみたいな荒い台でさ。で、ある日記録的な大勝ちをして、次の日にこれまた記録的な大負けをした。それでなんだかすごく虚しくなったみたいでね。それ以来、真面目な立ち回りになったらしいよ。あんな感じで、落ちてる小銭を拾うような、ね」

私は家に帰って、その「ファビーチャンク」というのがどんな台だったのか、インターネットで調べてみた。けれど、どこにもそんな台は見つからなかった。知り合いの編集者に「ファビーチャンクって台、知ってます?」と訊ねると、その編集者は「それ、チャビーファンクだよ。マックスアライドの台でしょ?」と言った。

チャビーファンクで調べたら、ちゃんと検索にヒットした。

ファビーは、ずっと勘違いされたまま、あだ名で呼ばれていたのか、と思うと少し可笑しかった。でも、案外ファビーにしてみれば、どんな名前で呼ばれていようと、それは大した問題ではなかったのかもしれない。


-end-


※この物語はフィクションです。

登場人物や、特定の場所・集団などは実在のものではありません。きっと。


また来週っハートSeeYou