『週刊☆読み天野』 第3回『待ちぼうけ』 | 週刊☆乃見天野オフィシャルブログPowered by Ameba

『週刊☆読み天野』 第3回『待ちぼうけ』

毎週木曜日は『週刊☆乃見』の日ハート

今週は、読みモノをお送りしマスバラ


私がまだ愛知県にいた頃の話。

そのホールに私が行くのは、月に6回。7のつく日のイベントと、その前日の下見の時。

その日の私は一人打ちで、初代北斗を打っていた。そこそこ小役は落ちるし、初当りも早い。ただ、継続だけが悪かった。

このホールの7のつく日のイベントは、台番号の下一桁が全台56というオーソドックスな末尾番号イベント。それだけじゃなく、フェイクで他の番号にも設定は入るから、実質店内の2割強が設定56という感じのイベントだった。

その日の当り番号は末尾3。私が打っている北斗も563番台だった。

代打ちとして、お小遣いをもらって打つときは継続率に恵まれるのに、一人で打った途端にこれだもんね。43枚目の千円札をサンドに入れながら溜息をひとつ。

一緒に打ちにきた仲間たちはいつものように出している。私だけが、高設定の挙動であるにもかかわらず、出玉がそれを肯定してくれない状況だった。

午後6時を過ぎて、5万円を超えて当たった北斗絵柄が単発で終わったと同時に、私の所持金も尽きた。仲間の誰かに借りようかとも思ったけれど、ホールの中でお金を借りるのは御法度だ。もちろん、お願いすれば貸してくれるだろうけれど、そういう場面で、自分の弱さを甘受したくはなかった。

「もうヤメるね、今日は調子悪いみたい」銭形の末尾3番台を打っている仲間の一人に声をかける。放出がBIGに偏り、5千枚ほど出ている。
「何? 設定なかった? でもあの北斗、初当り軽いじゃん」
「お金なくなったの。5万円もやられちゃった」
「ヤメる理由は金だけ?」
「出せる気がしないし」

私がそういうと、彼は少しだけ険しい顔になった。「気がしないってのは、理由がない。メンタルで出る、出ないは決まらないぜ?」

「うん、分かってる。でも、お金を借りてまで打とうとは思わないし…」
「ふうん、まぁいいや。途中でタネがなくなるのは自分の準備不足だからな。次から気をつければいいさ」

手厳しいことを言われて、私は少し落ち込んだ。北斗の下皿に入れていた携帯をポケットにしまって席を立つ。すぐに隣で打っていた白いパーカーを着た男の子が煙草を放り込んだ。

自動販売機でボルヴィックを買って、ホールの外に出る。少しだけ、風が冷たい。

水を一口飲んで、空を見上げる。それは夕方から夜になる曖昧な時間で。近くを走る県道からトラックの乱暴なクラクションが聞こえてきて。それでやっぱり私はなんだか悲しくて。

それは負けた事じゃなくて、高設定で出せないことが。私にパチスロを教えてくれた人の言葉を思い出す。

「高設定で負ける事は恥ずかしいことじゃない。低設定を打ち続けてしまう事が、本当に恥ずべきことなんだ」

私のしたことは、間違っていたのだろうか。やばい、泣きそうだ、と顔を上げると、物陰からわん、と犬の鳴き声がした。

驚いて振り向くと、駐輪場の柱に、リードが結ばれていて、ムクムクとした柴犬が一匹、自転車の陰に身を潜めるようにしていた。

誰かの飼い犬なのだろう。散歩の途中で、ちょっとパチンコ。ありそうな話だ。

「君も、誰か待ってるの?」

私は柴犬の頭を撫でようと近づく。私も、仲間の車に便乗して帰らないと、帰れない。柴犬は嫌々をするみたいその場でぐるぐる回り始めた。頭を撫でられるのは、嫌みたいだ。

バッグの中に、朝買って半分食べた卵パンがあるのを思い出して、それをひとかけら柴犬の前に置いた。

柴犬はそれをクンクンと嗅いで、チラッと私の方を見て、パクリとそれを食べた。

しばらくの間、その柴犬の隣にいて、二人で誰かが迎えにきてくれるのを待っていた。

早く一人で打てるようになりたい。誰かの庇護の元じゃなくて、自分だけの力で、勝つということを重ねていきたい。

「負けると、悔しいねぇ。淋しいねぇ」

夜になっていく空を見上げて、誰にともなく、呟いてみる。隣で柴犬が、わん、と吠えた。

-end-


※この物語はフィクションです。

登場人物や、特定の場所・集団などは実在のものではありません。きっと。


また来週っハートSeeYou