九州東岸を走る日豊本線に、「宗太郎」という駅がある。大分と宮崎の県境付近にある、山間の小さな集落に設けられた駅である。
 延岡発16時47分発の佐伯行き普通列車に乗り、宗太郎駅を目指す。検札に来た車掌が「宗太郎で降りる人は、めったにいないですから」という。下車したのは、私一人であった。


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 宗太郎駅を発車する普通列車


 宗太郎駅には、小さなホームが2面と跨線橋がある。駅舎は撤去されており、土台だけが残っていた。かつて駅舎が建っていた場所に、切符を回収する箱が立てられている。時刻表と運賃表は、トイレの外壁に掲げられていた。
 駅周辺には、数軒の民家があるのみで、商店などは無いようである。延岡寄りのトンネルを抜けたところに、廃校のような建物を、車窓から見たことがある。


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 宗太郎駅

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 宗太郎駅時刻表

 宗太郎に停車する列車は、上り下り3本づつしかない。延岡側の隣駅である市棚は、延岡からの折り返し列車が1本ある。佐伯側の隣駅となる重岡には、佐伯からのバス便がある。宗太郎は、九州一の秘境駅であろう。

 宗太郎の位置する大分と宮崎の県境付近では、日豊本線と国道10号線が絡み合いながら山間を走っている。海沿いのルートが選択されなかったのは、リアス式海岸でより険しいためである。宗太郎付近の国道10号線は、番号の若い国道ながら、道幅が狭く、交通量も少ない。

 しばらくして、下り列車の接近を知らせる放送が流れた。
 まもなく、列車が鉄橋を渡る音が聞こえてくる。すぐ北に国道10号線と鎧川を渡る鉄橋がある。特急「にちりん19号」が姿を現し、山間の小さな駅を通過していった。


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 ハイパーサルーン「にちりん」が通過

 陽は、山の陰に隠れ、ホームに灯がともった。再び、下り列車の接近を知らせる放送が流れ、鉄橋を渡る列車の音がする。南延岡行き普通列車の到着である。18時06分発の南延岡行きは、宗太郎で上り特急列車「にちりん22号」と行き違いをする。赤い特急列車の通過を見送ったあと、山間の小さな駅を後にした。
 
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 夕刻の宗太郎駅