旅が始まった。
出発前というのはいつでも慌しいもので、
気づけばバックパックを担ぎ玄関先に立っている自分がいた。
夢の中で同じような光景を何度も何度も見てきた気がするが、
今回はどうやら簡単には覚めないらしい。
最後に自分の部屋を見回してみると、完全に魂が抜けた状態だった。
部屋は空箱だった。
生きていく上で必要なものは殆ど全てバックの中に入っている。
喰い込む肩紐が今回の旅の重さを痛みで伝える。
10月26日、群馬県板倉町を出発する。
東京都世田谷区高円寺にてライブを行い、
テナーサックスをメンバーに預け、翌朝6:00東京を出た。
屋久島についた頃には夕焼けは既に末期、
深い紫色をした空に厚い雲が覆いかぶさっていた。
なんとも不気味な空だった。
それでいてとても美しかった。
鹿児島からの乗船客が各々レンタカー、タクシー、観光バスと
待ち構えていた乗り物に吸い込まれていき、安房港は一瞬にして静まり返った。
自分と初老のおじさんの2人だけが取り残された。
50人近くの乗船客のうち、路線バスの利用は2人だけらしい。
ナップサックひとつを肩に背負ったおじさんは1泊して福井に帰る。
このおじさんには自分の背中の巨大なバックパックがどう映ったのだろう。
聞きなれない地名をいくつも通過すること約40分、目的地付近のバス停に到着。
街灯ひとつ無い暗闇を圧倒的な数の虫の鳴き声の中数分歩いた末、
これから働くことになっている宿に到着した。
この宿で行き交う旅人達を迎え、見送り、
島を歩き、眺め、探し、遊び、考え、感じる。
遥かなる旅路を思い描きながら。