彼はどうやら現代に戻ったようだった。
そこはインドだった。
彼は聖地ベナレスの沐浴者の真っ只中に降って湧いたのである。
が、誰ひとりとしてそれを気にとめる者はいなかった。
ただ、彼がまとっていたメタリックな素材のジャンプスーツ姿は人目には異様に映った。
河岸を離れて彼は街をブラブラ歩いた。
『現代のミステリー……行方不明のプロスキーヤー、ヒマラヤで凍死体となって発見される』
路上で風に舞っていた英字新聞に、彼はそんな見出しを発見した。
彼はそれを拾いあげ、むさぼるように読んだ—―
『カトマンズ発 昨シーズン、アメリカのスコーバレーで開かれた国際フリースタイルスキー選手権で、“メビウス・ジャンプ”にチャレンジ中に忽然消え失せて以来、行方不明となっていたフリップ・エアマンさん(24)が、ヒマラヤの氷河中で凍死体となって発見された。
発見したY国登山隊の報告によると、その凍死体はまるで原始人のような衣類を身に着けていたが、エアマンさんのサインが記されたスキーとブーツを着用していたという。また、エアマンさんの友人でもあるベルク隊長も、その死体はエアマンさんと非常によく似ていることでもあり、おそらく本人であろうといっている。
死体はクレバスの間で氷漬けになっており、何故スコーバレーでジャンプ中に消えたエアマンさんがヒマラヤの氷河の中で発見されたのか、謎というしかない』
〈あの若者だな……あれは夢じゃなかったんだ。じゃ一体……。
それにあの時感じた不思議な、共感のような気分は?
それにしても、今オレが名乗り出りゃどういうことになるんだろう?
本人であることが証明できても、ヒマラヤの凍死体とオレのスキーをどう説明すりゃいいんだ?
そしてジャンプ中に消えたワケも……とにかく説明のつかないことばかり。
こんな夢のような話、信じてもらえるのだろうか?……〉
ぼんやり考えにふけりながら歩いていると、誰かに肩をたたかれた。
何と、あの行者だった!
行者はもっとずっと昔の時代の人だろうに、周りに見事に溶けこんで見える。
〈インドにはそんな面白さがあるな〉
行者と別れて、彼は混沌とした群衆の中へ入って行った……(おわり)