ある村に佐助という10歳になる少年がいた。
幼くして両親に死に別れ、遠い血筋にあたるその村の庄屋の家に身を寄せていた。
だが、朝早くから夜遅くまでこき使われ、おまけに同い年の、庄屋の息子には事あるごとにいじめられ、惨めな毎日を送っていた。
ある冬の夜、激しく犬の吠える声に、ちょうど尿意を催していた佐助は目を覚ました。
寝ぼけ眼に、中庭で何かが動くのが見えた。
目をこすりこすり月明かりにすかして見ると、大男が金色の髪の毛を振り乱しながら、鶏を袋に入れているところだった。
天狗様だな……と佐助は思った。
だが、不思議に恐ろしいとは感じなかった。
それどころか、妙に懐かしいような気さえしてきた。
寝ぼけていたのかもしれない。
佐助は土間へ行ってわらぐつをつっかけると、もうすでに歩き出していた天狗様の後を追い始めたのである。
天狗様の足は速かった。
天狗様が歩いた後には、雪の上に長い二筋の足跡がついており、佐助は懸命にそれを辿って行った。
男は何気なく後ろを振り返ってギョッとなった。
ひとつ向こうの尾根を何者かが追いかけてくるのだ。
とうとう見つかったか……
だが、その影は小さかった。
……まだこどもじゃないか。
それによろよろしている。
男は思わず踵を返し、急いでもと来た道を戻った。
今登ったばかりの尾根をスルスルと下り、もうひとつの尾根を登った。(つづく)