今日は朝からずっと保乃ちゃんの元気がないように見える。
何かを思い出すように空を仰いでは「はぁ…」とため息をつく、というのを繰り返していた。


「ねえ保乃ちゃん大丈夫?元気なさそうだけど。」


「ああ……うん、大丈夫やで。」


その取ってつけたような作り笑いで、保乃ちゃんが嘘をついているのがありありと分かる。
こういう時、保乃ちゃんは良くも悪くも正直だから分かりやすい。


「……ねえ、何かあったんでしょ?」


「なんもないって。」


「私ってそんな頼りない?」


「……そんなことは…」


「じゃあ教えてよ。保乃ちゃんが辛そうにしてたら、私も悲しいよ……」


「………誰にも言わへん?」


「うん。」


「保乃のこと嫌いにならへん?」


「うん、絶対。」


「………ここじゃなんやから、ちょっと来て……」


相変わらず落ち込み気味の保乃ちゃんに手を引かれるがまま楽屋を出た。








〈 空き部屋 〉


「で、どうしたの?」


「……実はな…保乃、菅井さんのこと好きやねん。」


「んえっ?」


予想もしなかった言葉に変な声が漏れてしまった。
まず恋愛相談だったというのにも驚きだし、出てきた名前にも驚いた。


「好き……やってんけど……」


「うん。」


「この前……菅井さんと理佐さんがキスしてるの、見ちゃって……」


「え………」


「……保乃、どうしたらええんか分からへん……」


「…………」


泣き出しそうになっている保乃ちゃんの背中をそっとさすってあげる。


「……菅井さんのこと…好きなんだ?」


「うん……でも、理佐さんがいるからっ……」


「…………」


なんで保乃ちゃんがこんなに悲しまないといけないんだろう。
保乃ちゃんにはあの、何もかもを照らしてくれるような笑顔が似合うのに。


「………理佐さん、かぁ…」


「えっ?」


「ううん、なんでもない。」


保乃ちゃんが幸せになるには

 " 菅井さんの隣が理佐さん " っていう認識を無くしてしまえばいいのかな








〈 次の日 〉


そこさくの収録が終わって、唯衣ちゃんとまりなのボケツッコミに爆笑しながら楽屋へ戻っている最中、2人で楽しそうに話している菅井さんと理佐さんの姿が視界の端に映った。

別に違和感もなく、普段通りの距離感だけど、昨日の保乃ちゃんの様子を見てからではそれも全く違う意味のものに見える。


「あ、私ちょっと飲み物買ってくるけど、友香は?」


「私も行こっかな。あ、でも財布楽屋なんだよね……先行っといて!」


「うん、わかった〜。」


そう言い残して菅井さんは楽屋の方へ、理佐さんは自動販売機のある方へと逸れていった。


" 保乃、菅井さんのこと好きやねん "


ふと脳裏に、昨日の保乃ちゃんの泣きそうな声が蘇った。


「……あ、ごめん先行っといて!」


「どうしたの?」


「ちょっと飲み物買ってくる!」


「あー、おっけおっけ。」


特に言及されることもなく、あっさりと別れられたので一安心する。


えーと、理佐さん、理佐さん……


…あ、いた!


「……りーささんっ!」


「うわっ……あ、ひかるちゃん。」


どうしたのー?なんて言ってニコニコ笑ってくれる理佐さん。

保乃ちゃんの笑顔の代償に、こんな素敵な笑顔を曇らせてしまうことになるかもしれなくて、なんだか申し訳なくなる。

でも…これも保乃ちゃんの笑顔のためなんだから、きっと理佐さんも分かってくれるだろう。


「理佐さんって……菅井さんと付き合ってますよね?」


「…っ、」


明らかに理佐さんの表情が強ばった。
まあ、予想はしてたことだけど。


「なんで………」


「見ちゃったんですよね。理佐さんと菅井さんがキスしてるとこ。」


「…………ねえ、ひかるちゃん。」


「はい。」


「それ、一応隠してることだからさ……誰にも言わないでくれる?」


「はい、言いませんよ。」


「そ、そう?……ありが」


「その代わり」


理佐さんが飲み物を取りだそうと屈んだタイミングで、理佐さんを押し倒した。
そのまま、顔を鼻先が触れる寸前までぐいっと近づける。


「菅井さんに見せたことのない顔、見せてくれたら……ですけど。」


「……っ、///」


……理佐さん、普通に可愛いな…


なんて呑気に考えていたら、曲がり角の方からパタパタと足音が聞こえた。


よかった、この一連の流れをちゃんと目に焼き付けてくれてたみたい。










はぁ……今日も菅井さんと理佐さん仲良さそうだったな。

保乃なんか、眼中にもないんだろうな……


………あれ?菅井さん?


「うわっ!」


「きゃっ!」


菅井さんも保乃もぶつかる寸前まで全く前を見ていなくて、床に尻もちをついてしまった。


「いたた……すいません、菅井さ……」


「………う、」


「だ、大丈夫ですか?痛かったですか?」


頭でも強く打ってしまったんだろうか、菅井さんは一向に顔を上げようとしない。


「ほんとすいませ……え?」


泣いて…る?


「えっ…!ほ、ほんとすいません!そんなに痛かったですか!?
えっどうしよ!きゅ、救急車!!」


色々なことが重なりすぎてパニクっていると、菅井さんがふ、と笑い声を漏らした。


「ふふ、保乃ちゃん慌てすぎ。」


「え……?」


「でも心配してくれてありがとうね。
あっ、頭痛くて泣いてる訳じゃないからそこは大丈夫だよ。」


「えっ………じゃあなんで泣いてるんですか…?」


「…………それは…」


あ、この質問はあかんかったかも。

菅井さんはちょっとだけ笑顔を覗かせていたのに、みるみる顔が曇ってしまった。


「……ふふ、ごめんね、泣いてばっかで……」


無理やりにでも笑顔を作ろうとする菅井さん。その未完成な笑顔は、保乃の体を動かすには十分だった。

気づいたら菅井さんを抱きしめていた。


「ほ、保乃ちゃん……?」


「ほの……じゃなくて私、菅井さんのことが好きです。」


「えっ…?」


「……なんか辛いことがあったんですよね…?」


「…………」


「別に保乃に言ってくれなくてもいいんです。きっと言いたくないだろうから……」


「………」


「でも……でも、菅井さんの苦しんでる姿見たくないんです。
保乃、頼りないかもしれないですけど……菅井さんのことやっぱり好きなんです。」


「……保乃、ちゃん」


「菅井さんのこと、守りたいんです。」


「……っ、」


分かってる

これが身勝手な恋なことは。

今だって、菅井さんの弱ってるところを狙っているだけに過ぎない。


保乃は、理佐さんには勝てない。


…だけど、それでも、やっぱり菅井さんのことがどうしようもなく好きなんだ。


「菅井さん……好きです。」


「っ、」



……やっぱり、理佐さんには勝てないや。



「………すいませ」


「保乃ちゃんは」


「え?」


「保乃ちゃんは、私の隣に居てくれる…?」


「……っ、はい!います!ずっといます!」


「……そっか…」


何かが吹っ切れたかのように、力なく笑う菅井さん。

その姿は綺麗な反面、シャボン玉のように触れたら消えてしまいそうな儚さがあった。


果たして保乃に

菅井さんの、雲間から再び太陽が顔を出したようなあの笑顔を

取り戻すことが出来るんだろうか




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りさゆっかーも好きなんですけど、ほのるんもいい……!

おしまい。