久『これ誰か忘れてないー?』



そんなメッセージの後には、なんだか見覚えのある醤油の容器の写真が。

ピコン、とメッセージが続く。



与『ごめん!!』

久『給油室の冷蔵庫入れとくね!』

与『ごめん、ほんとありがとう。』



恒例の与田の忘れ物LINEをサッと流し見してから、 " 思い出セカンド " を閉じる。

思い出セカンド、というのは私たち3期生のLINEグループ名。
以前のLINEグループ名にちなんで久保が名付けたのだが、彼女曰く色んな意味があるそうで。

それは話すと長くなるから、ここでは触れないけど……私もこの名前は気に入っている。

なぜかって?

このLINEグループを開く度に、彼女のことを嫌でも思い出せるから。


「……今どうなってるんだろ。」


度々こうして、今はもう使われていない 
" 思い出ファースト " を覗くことがある。

メンバー数は、思い出セカンドと変わらない11人。1人足りない。
その原因は確かだった。

今なお、トーク履歴の1番下に残り続ける



 " 大園 桃子 が退会しました " 



の文字。


卒業前に何度も久保に「抜けないでね!」と念押しされていたのに、あっさり桃子は私たちの前からいなくなってしまった。

そして桃子がLINEグループを退会したと同時に、私の友達リストから " 大園 桃子 " という名前は消えていた。

……きっと桃子のことだから携帯の機種変かなんかのトラブルだろう、なんて推測を立てたけど、あくまでも憶測の範囲だ。

もちろん桃子の連絡先が消えているのは私だけじゃなくて、3期はもちろんのこと、飛鳥さんや北野さんといった先輩方も、誰一人として桃子の連絡先を持っている人はいなかった。
桃子のインスタにDMを送ってみても、返信は愚か、既読がつくことすらなかった。


つまり、桃子が今どこで何をしているのかが全く分からないのだ。










「……でね、ここの所でぶつかるかもしれないからもうちょっと内回りにしようかなって。」


「……………」


「梅ー?聞いてる?」


「あ、ごめん……」


「素直でよろしい。……桃子のこと?」


「そう……」


「どこ行っちゃったんだろうね。」


「わかんない…」


桃子の連絡先が消えていることに気がついてから、約1ヶ月が経った。

最初は3期生のみならず1期生の先輩方の間でも桃子の話題で持ち切りだったが、今や桃子の名を口にするメンバーはほとんどいなくなってしまった。

みんな忘れてしまったわけじゃない。

ただ、あまりにも手がかりが無さすぎる。

口にしたところで何かが変わるわけでもないし、おまけに今は新曲が発売されたばかりで忙しいときた。

いくつもの環境が積みに積み重なった結果がこれ、というわけだ。


「……ま、とりあえず内回りになるってことだけ知っといてよね。」


「あ、うん。」


そう言い残して美月はどこかへ行ってしまった。

……最近、桃子のことを忘れてしまうんじゃないかと不安になることが増えてきた。

もちろん、みんな桃子のことを心配しているのは分かっている。

だけど、やっぱりそれ以上にアイドルとしての仕事を全うする責任がある。

美月なんかはアイドルとしての仕事に加えてドラマの撮影をこなしており、スケジュールがパンパンだと聞いたことがある。


「……やっぱり、仕方がないのかな。」


以前、実際はもうちょっとオブラートに包まれていたけど、ニュアンス的には「なぜそこまで桃子に固執するのか」と聞かれたことがある。


なぜ、か……


確かに桃子への思いは卒業ライブとかで散々伝えたし、これ以上メンバーとして伝えることはないはずだ。

ない、と言ってしまわないと、卒業ライブを否定することになってしまう。

結局私は答えることができなかった。










楽屋を後に、1人帰路に着く。

美月の内回りもしっかり頭に入れたし、苦手な振り付けも何度も練習してできるようにした。

アイドルとしては完璧、なはずなのに

もやっとした気持ちを抱えながら、平日の昼間だというのに人通りの多い道を歩く。


ふと、以前桃子と来たことのある洋服屋さんが目に入った。

いつかの記憶が脳内で再生される。


 " あっ、ここ良さそう! " 

 " みなみん行こう!! "


なんてはしゃきだして、無理やり連れてかれたんだっけ。
あの時は桃子に振り回されてばっかりだったけど……今となっては懐かしいや。

突然のメモリーバックに少し寂しい気持ちになりながら、そのお店を後にする。




「ありがとうございます。」





………え?

その声は背後から聞こえてきた。


ちょっぴりハスキーな、鹿児島弁の抜けきれないあの声。

5年間、傍で聞き続けてきたあの声。

ずっと探し求めていた彼女の声。


はやる気持ちを抑えて、恐る恐るさっきのお店の方を振り返る。


電気が走ったみたいに、身体が強ばった。


卒業前と変わらない彼女がそこにいた。

どこか遠い存在になってしまった彼女が、やっと手の届く場所に現れた。


「……………っ、も」


「きゃっ!!」


「あっ、す、すいません!」


慌ててぶつかってしまった人を起こしている間にも、桃子はどんどん遠ざかっていく。

私の焦る気持ちと裏腹に女性ののんびりとした動作に、つい苛立ちが現われそうになる。

……だめだ、私はアイドル。


「大丈夫ですか?ほんとにすいません。それじゃ……」


 " もしかして……梅澤さんですか? " 


「え…?」


 " 私、大ファンなんですっ!!え、めっちゃスタイル良いですね! " 


「…………」


落ち着け、私。

ファンの方がいるからこその私じゃないか。


 " 何回か握手会もお邪魔したことあって………エミっていうんですけど、覚えてますか? " 


……でもやっぱり。

アイドルでもあるけど、
それ以前に " 梅澤美波 " っていう1人の人間なんだ。

だから、今だけ " 梅澤美波 " でいさせて。


「ごめんね、急いでるんだ。」


 " あっ……… " 


多少の申し訳なさは残るものの、それを振り切るように走り出す。

確か、桃子はあっちの方に……


「………あっ」


あの人だ!

駅の方目掛けて全力で走り出そうとした瞬間に、信号が赤に変わってしまう。

ああもう!!

さっきから妨害されてばかりな気がする。

どうして?

神様、あなたは私と桃子を引き合わせたくないの?
この気持ちを彼女に伝えることすら許してくれないの?

信号がえらく長く感じる。
もう2分ぐらい経ったんじゃないか、というところでやっと青に切り替わる。

神様はそこまで意地悪ではないようで、幸い改札はすんなり通ることができた。


………待って、どっちだ?


少し迷った後、1番近い階段を駆け下りた。



「桃子っ!!」



周りの目なんか気にせずに思いっきり叫ぶ。


パチ


桃子と目が合った。

と思った時には電車のドアは閉まっていた。


なんで

なんでこんなときだけ

せっかく会えたのに


窓越しに見る桃子は、よく見れば卒業前よりも少し線が細くなっていて。

いかにも大人の女性、といった雰囲気だ。


「桃子……」


当然その声が桃子に届く訳もなく。

ぷしゅう、と空気を吐き出す音と共に電車がゆっくり動き出す。
電車の動きに合わせて歩くが、残された時間は僅かだ。


ふと、桃子の口が動いた。


「なに?」


なかなか読み取れない。もどかしい。

タイムミリットが迫っていた。

桃子が先程よりもゆっくりと口をパクパクさせる。

最後の1文字を言い終えると同時に、桃子を乗せた快速列車は私を置いて、どんどん遠ざかってしまう。

小さくなっていく電車をぼんやりと眺めながら、桃子の言葉を思い出す。










 " また、ここで " 



それが、彼女が残した最後の言葉だった。




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なんか意味わかんない小説できました。

エミのメンタルは尊敬に値しますね。名前は適当です。

おしまい。