「好きな人が出来たんだ。」



幸せなはずの日常は、彼女のそんな一言で呆気なく崩れ去ってしまった。


 " そんなの嫌! "

 " 私はまだてちのことが好きなのに! "


……なんて言葉を筆頭に、彼女に伝えるべき言葉は沢山あったのに。

本当に驚いたら、人は動くことは愚か声を発することすら出来ないんだと身をもって痛感した。



てちが今にも出ていこうとしているのに。

彼女がテキパキと荷物をまとめていくのを、黙って見ていることしか出来なかった。




「ねる、ごめんね。」


「あ……待っ」



バタン



やっと絞り出したカラカラの声は、無慈悲にもドアの閉まる音に掻き消されてしまった。









重いキャリーバックを手に何処へ行くの?

私の涙を背に何処へ行くの?





荷物をまとめた午後。
てちはもうここにはいない。

ねえ、浮気相手のあの人
私のてちを返してよ。





きっと痛い目合うよ、理佐。


私にとって、てちがどんなにかけがえのない存在だったか分かる?


……私から彼女をとった罰が降りるよ。









ねえ、てち。

理佐のところでも元気にやってる?



私この前ね、浅草のかっぱ橋道具街で包丁買ったんだ。
切れ味は最高だから、安心してよ。

あ、可愛いお皿も買っちゃったの。


いつかてちにも触らせてあげたいなぁ。










ねえ、てち。

そろそろ私のことが恋しくなってきたんじゃない?



この前、浅草に立ち並ぶお店に入ったの。
そしたら木のいい匂いがしてね。
また買っちゃった。

明日には味わえるからね。










真夜中に突然会いたくなって、気づいたらてちが目の前に立っていた。


ああ、私の大好きなてち。


その華奢な体に思いっきり抱きつけば、よほど私に会いたかったのかてちは涙ぐんでいた。



「ねえ、もう許してよ……」


「んー?」


「ねる、理佐をどこにやったの…?」


「理佐?知らないなぁ。」


「っ、なんで……?」




それもこれも全部

貴方が悪い。
貴方が悪いんだ。

ああ
貴方が悪い、貴方が。




貴方が謝らない限り、私は理佐を狙い続ける。

……死体がふたつにならないといいね。





ねえ

好きって言って。



好きって言ってよ。




好きって……言ってよ。





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好きって言ってよ / あいみょん


徳大でのねるちゃんがめっちゃ好きだったので、それイメージしてます。

おしまい。