少し前を歩く彼女を呼び止めた。
「ん?」
近づいてきた彼女のコートの裾をちょいちょいと引っ張る。
「なにー?」
分かってくれない彼女に、さっきよりも少し強めに裾を引っ張った。
" し ゃ が ん で " と念を込めて。
私の一方的すぎるテレパシーが伝わったかのように、彼女がゆっくりと腰を落としていく。
「ふふ。」
「これで合ってる?」
「うん!」
「その心は?」
「やー、 " 目線合う " っていいよねって思って………私、これすごい好きだなあって思って笑」
「何、急に。わかるけどさー笑」
「…………」
せっかくしゃがんで目線を合わせてくれたのだからと、彼女の綺麗な顔をこれでもかと目に焼きつける。
うるうるとした瞳に、優しげな眉。
笑った時にできるえくぼ。
ファンだけでなくメンバーの心をも鷲掴みにする、ハート型の口。
「…………」
「……いや、いつまで続けるの?笑」
「それ保乃のセリフやし!笑」
冗談を言っても、こうやってけらけら笑ってくれるあなたがすき
指先ほど近くにいるあなたがだいすき
……だけど。
うっかり愛しちゃったらどうするんだ
うっかり、
君が世界で一番好きになっちゃったら
失ったとき、どうすんだ
きっと、私は死んじゃう。
「じゃ、またな。」
「うん、また遊ぼうね!」
「………ふふ、前見ないと転ぶで笑」
「保乃ちゃんみたいに鈍臭くないもん。」
「あの時コケてたやんか笑」
「え嘘。そうだっけ?笑」
だから
君に好きなんて言えない
終わりばっかり見ちゃう私は
どうしようもない意気地無し
『今日も好きって言えへんかった〜…』
『意気地無し』
『夏鈴ひど。』
『事実じゃん。』
『でもめっちゃ怖いんやもん。フラれて関係壊れちゃうかもって考えたら。』
『もうひかるは諦めてさ、他の子探せばいいじゃん。』
『ほんまに。そっちの方が楽やし、そうできたらええねんけどなぁ……』
言葉を濁すようにメッセージを送り、一度画面から目を離した。
ついさっき彼女と別れた時はほんのり橙色に染まっていた空が、深い青みを帯びてきている。
手にしていたスマホから、新規通知を知らせるメロディーが聞こえてくる。
どうせ夏鈴の嫌味だろうと、油断しながら画面に目を戻した。
そこには『Hikaru』の文字が。
" ひぃちゃんからメッセージがきてる "
それだけのことなのに、胸のドキドキが止まらなくなった。すぐさま、幸福感のような温かいもので心が包まれていく。
自然と口元がにやけてしまうのは、許して欲しい。
だって、こんなに幸せなんやから。
すぐに既読がついてしまうことなんてお構い無しに、ひぃちゃんとのトークを開く。
『今日はありがとう 楽しかったよ』
「〜〜〜〜〜っ!!」
たった14文字の、絵文字も何も無い簡潔な文章。
その文章でさえも愛おしく感じてしまうのだから、恋というものは恐ろしい。
「ああ好き!無理!やっぱ好き!!」
ごめん、夏鈴。
せっかくアドバイスしてくれたけど、やっぱり自分の気持ちに嘘つけなさそう。
――――――――――
おしまい。