ふと頬をペチペチと叩かれていることに気がついた。
痛くはないが絶妙に煩わしいその衝撃と眠気との間をしばし彷徨っていたが、ついに耐えきれず重たい瞼を持ち上げた。
「ちょっと、やめてよ。」なんて小言でも言ってやろうと思っていたのに。


「………へっ?」


私の口から漏れたのは、アイドルらしからぬ間抜けな声だった。
しかし寝起きで思考が上手く回っていない上、こんな状況なのだ。それくらいは許して欲しい。

私、菅井友香は、渡邉理佐と同棲をしている。だから私を起こす人物は彼女以外に有り得ないのだが………


「だ、だ、だれ!?」


私を跨りながら見下ろしてくる彼女は、どうみても7〜8歳の少女にしか見えない。

え、り、理佐はどこ行ったの?

若干パニクっていると、7〜8歳とは思えないほど冷静な声が聞こえてきた。


「……私だよ。」


「え?」


「渡邉理佐。」


「…………えええっ!?」


 " 朝っぱらから近所迷惑かな " なんて考える余裕もなくて、感情のままに叫んでしまう。案の定、少女……理佐はうるさそうに顔をしかめている。


「え、でも、え?ほんと?理佐なの?」


「うん。理佐だってば。」


「あ……でも確かに理佐に似てる……」


「だから、私なんだってば。」


「え、でも……なんで?」


「私が聞きたいよ。」


「なんか心当たりないの?」


まだ胸がドキドキしているが、少しだけ思考が追いついてきた。

まず私の上でため息ばっかりついてる少女は、私の彼女である渡邉理佐。
確かに着てるパジャマも記憶にあるものだし、何より顔がすっごい似てる。

というわけで、これは信じざるを得なさそうだ。

次に何故に彼女はこんな姿になっているのか。それはもう私には訳わかんないから、ご本人に思い出してもらうしか……
あ、何か思い出したっぽい。


「あ、もしかしたらあれかも……」


「なになに?」


「昨日ね、撮影終わった後オダナナと話してたんだけど。
なんかオダナナが『このキャンディあげる!』とか言って飴押し付けてきてさ。」


「絶対それじゃん!!」


これはもう犯人オダナナで確定じゃない?


「そのキャンディ怪しすぎるでしょ。」


「それくらいかなぁ。思いつくのは。」


「え、ちょ、オダナナ呼び出すね。」


私の上に跨っている理佐は可愛すぎて、正直ずっとこのままでいたかった。しかし早急にこの問題を解決しないと、仕事にも響いてしまうだろう。
ちょっと未練がましく思いながらも、理佐に退くよう促して、鞄からスマホを取り出す。

『至急私の家に来て。』と送れば、あっという間に『ええ?わかった。』と了承の返信が。

さあ、後は理佐をこんなにした犯人を待つだけだ。










「あ、おはよー。」


「ちょ、早く来て!」


動きがのんびりとしているオダナナを急かすように、理佐の方へとぐいぐい押していく。
「ちょ、早い、早い」なんて文句を言っていたオダナナの動きがピタッと止まった。

オダナナの視線の先には……小さくなってしまった理佐が。

おちゃらけて「よっ。」とオダナナにハイタッチを求める理佐。そんな理佐に目をパチクリさせているオダナナ。


「…………え、理佐?」


「そうだよ。ほんとにどうしてくれ」


「可愛いっ!!!」


「ぐえ……っ」


もはやタックルに近い勢いで抱きしめられ、理佐は少し苦しそうだ。

慌ててオダナナにチョップをかませば、「あいでっ!!」と短く叫んだ後、理佐を解放した。


「ちょ、理佐が死んじゃう!」


「いやあ、ごめんごめん。あまりにも可愛すぎて。」


「まあそこは否定しないけどさ。
で、理佐に何したの?」


「あの飴なんだったの?」


「あー、あれスタッフさんに貰ってさ。
『ワカガエール』って言う飴なんだけど。」


「うわ、何その胡散臭そうな名前。」


「……まあ名前はともかくさ。ほんとに効果があるか試してみたかったわけよ。」


「で、そのしょうもない実験の被害者が私ってこと?」


「しょうもないとか言うな……笑
でも、効果は一級品だったでしょ?」


「……それは認めざるを得ないけど。」


「それに……ね、友香。」


理佐に聞こえないような声量で、私にひそひそと囁いてくる。


「…可愛い理佐見れて良かったでしょ?」


「………」


…うー、なんかムカつく!

でも小さくなっちゃった理佐を見て、ちょっと興奮してしまった自分がいる、ということも事実だ。


「………まあ、可愛いからいいけど…」


ごにょごにょと口ごもっている内に、オダナナは理佐の方へ向き合っていた。

ちゃんと理佐の身長に合わせて話しているあたり、オダナナの優しい性格が現れていると思う。


「ごめんね、理佐。
でもこれ、効果は1日しか持たないらしいから大丈夫だと思う。」


「ほんと?」


「うん。調べたらそう書いてた。」


「そっか。」


「まあもし最悪戻んなくても、第2の人生の幕開けっていうことで……笑」


「そうならないことを祈ってるよ。」


2人の会話からして、そこまで深刻なことにはならなさそうだ。
オダナナは嘘をつくような人じゃないから、信頼出来るといえば出来るだろう。










「……帰っちゃったね〜。」


「そうだね。」


結局その後、ずっと3人で喋り明かしていた。遅めの夜ご飯をオダナナに振舞って、たった今オダナナを見送ったところだ。


「………ふわぁ……」


「眠い?」


「うん……子供だからかな…」


「あー、じゃあもう寝よっか。」


「うん。」


ちなみに理佐には、私のTシャツをパジャマ代わりに着てもらっている。

別に理佐のTシャツでもなんでも良かったのだが、理佐曰く「友香の着てみたい」とのことで私の服を貸し出している。

サイズも小さすぎることはなく、むしろワンピースのようになっている。


「じゃ、おやすみ。」


のそのそと自分のベッドに上がりこもうとすると、「まって。」と呼び止められた。


「どうしたの?」


「せっかくだから、友香と一緒に寝たいなぁ。」


「えっ?」


「だめ?」


…うっ、可愛い……


「ううん、全然いいよ!
じゃあ……失礼して……」


恐る恐る理佐のベッドに上がり込む。ギシッ、ギシッ、とベッドの軋む音になんだか胸が妙にドキドキする。

……理佐とそういうことする時も…こんな感じなのかな…。

電気を消しているから、理佐からは私の顔ははっきり見えないはずだ。
それなのに、まるで私のやましい気持ちを見通したかのように理佐がふっと笑った。


「ちょっと、何緊張してるの笑」


「えっ、あ、いや……」


「別に友香とならいいけど……今はだめだよ?笑」


「………はい…///」


完全に理佐の良いようにされて、少し恥ずかしい。
 " 本当にこの人は私より年下なのか? " と疑いたくなるほどの落ち着きようだ。
でも " やっぱり年下なんだな " と思えるほどの甘え上手でもあるのだから、驚きだ。

ごろん、と横になると、すかさず理佐が懐に潜り込んできた。ここまでくるともう羞恥心なんてものは無くなる。

理佐のさらさらの髪の毛を撫でると、彼女がくすぐったそうに笑った。


「くすぐったい?」


「ううん。なんか友香に頭撫でられるのって、新鮮だなって笑」


「あ、そっか。
理佐の方がちょっと背高いもんね。」


「まあ、そんな変わんないんだけどさ。
……でも、すごい気持ちいいな。」


「え、ほんと?」


「うん。なんかお母さんみたい。」


「……そっか。」


「友香。」


「ん?」


「大好きだよ。」


「……うん、私も大好き。」


「……おやす、み…」


「おやすみ、理佐。」


頭を撫で続けていたら、スっと眠りに落ちてしまった理佐。
すぅ、すぅ、と規則正しい寝息を聞いていたら、私もなんだか、眠たくなって……き、た……










「ん……」


カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しい。
うっすらと瞼を持ち上げた瞬間、心臓が止まるかと思った。

私の目と鼻の先には、いつも通りの理佐の整った顔立ちが。

理佐の体が小さく上下するのと連動するように、温かい吐息が顔にかかってくすぐったい。


「………う、ぬ、抜けない…」


昨晩お互い抱き合いながら寝落ちしたせいで、元通りに戻ってしまった理佐の拘束からは逃れられなさそうだ。

……っていうか色々当たってる!色々!///

足を動かそうと思ってもすごい足絡められてるし、無理に動かしたら、理佐の肌と擦れてなんかちょっと……///

胸は胸で理佐のがぎゅって押し付けられて変な気分だし……どうしよう…


「り、理佐…起きて……///」


この状況を打破するには、とりあえず理佐を起こすしかない。

しかしあんまり動くのも変な気持ちになるし、大声を出すのも酷というものだろう。

最小限の動きと声でなんとか理佐に呼びかけ続けていると、「……ん、」と反応が見られた。


「………わ、友香…笑」


さすがの理佐も至近距離にいる私に驚いたようだが、私ほど動揺はしていなさそうだ。


「ちょ、その、1回離してくれない?///」


「えー?やだー笑」


「な、なんでっ///」


「だって友香可愛いんだもん。離したくない。」


「っ、///」


いちいちそういう言葉に顔を赤くしてしまう自分が情けなく感じる。
大分慣れてきたはずなんだけどな……


「それに、たまにはいいでしょ?
いつもこんなことできないんだし。」


「……まあ、それもそうだね…」


「んふふ、友香〜」


「ひゃっ……ちょ、理佐ズボンは!?」


「だって昨日Tシャツしか着てなかったからさ。」


「あ、そっか……って、ちょちょちょ!
足擦り付けるのはほんとにだめ!///」


「なんで?気持ちいいじゃん。」


「……なんか、変な気持ちになっちゃうから…///」


「えー?『変な』ってどんな?笑」


「…っ、理佐のいじわるっ…///」


「あはは、ごめんごめん笑」


もう火を吹きそうなほど顔が熱い。その高揚感、あるいは羞恥心を誤魔化すように理佐の胸元に思いっきり顔をうずめる。

すぐに後頭部に手が回されて、そっと抱き寄せられる。

私の心臓は笑ってしまうくらい荒々しいのに、理佐の鼓動は1秒に1回ほどのゆっくりとしたペースを保ち続けていた。


「ねえ友香。」


「……何?」


「幸せだね。」


「………うん、幸せ。」


私の答えに満足したかのように、理佐が少しだけ腕にぎゅっと力を込めた。


「さ、今日からまた仕事頑張ろうね。」


さっきまでは『離して欲しい』と切実に願っていたのに、いざ離されるとなんだか心寂しい。

全身に残る理佐の体温がなんだか懐かしく感じるのだった。




――――――――――

ついに、ついに櫻坂にも足突っ込んじゃいました。

てちがいなくなってからちょっと疎遠気味だったんですけど、久しぶりに見たら、「え、みんなめっちゃ可愛いやん、これは推すしかないな」ってなりました笑

ちなみに櫻坂の推しは、渡邉理佐、菅井友香、守屋茜、上村莉菜です!

まだまだ櫻坂のこと知らないので、是非色々教えてくださったら嬉しいです〜!