与田side
今思えば
18thシングル『逃げ水』でWセンターとして選ばれた時から
私たちの夏は始まっていた
彼女はWセンターとして共に歩む同期、同志としてかけがえのない存在だった
そのことに気がついたのは何年も後、彼女の存在があやふやになりだした頃だった
彼女は三期生初の卒業生であり、三期生のセンターでもあった
誰もが彼女のことを『センター』として認めていた
それほど彼女には、心惹き付けられるような何かがあった
意外にも彼女が卒業したあと、大きな変化が起こることは無かった
流水の如く流れていく日常に、彼女という存在は小さすぎた
乃木坂46にとってはそうかもしれない
だが私にとっては
彼女の存在は無くてはならないものだった
そのことにもっと早く気づくべきだった
彼女に伝えるべきだった
今後、『逃げ水』をどんな形で披露することになるのかはわからない
代役を立てられるのかもしれない
私一人でするのかもしれない
どちらにしろ
今後『逃げ水』を披露するたびに
悲しげに空を見上げる桃子の表情が
ずっと私の胸を締め付けるのだろう
これは彼女に然るべきことを伝えなかった
私への罰
桃子side
滅多に涙を流さない彼女が
ポロポロと涙を流しているのを見て驚いてしまった
この5年間で1番誰と過ごした時間が長かったかと問われれば
間違いなく「よだ」と答えるだろう
それほど彼女と過ごした時間は長かった
彼女のことは誰よりも知っていると思っていたのに
まだまだ知らない彼女の一面が隠れていた
5年という年月はそれほど長くも短くもあった
彼女と一緒にいる時は
みなみんやれんたんとは違った安心感のようなものに包まれていた
あまり彼女とベタベタはしなかったけれど
以心伝心とでも言うのだろうか
何も言わなくても分かり合えるような
不思議な関係性だった
毎日のように2人で居残り練習をして
2人っきりの帰り道で
一緒に見上げた
ほとんど星の見えない東京の夜空
あの美しく、寂寥感に溢れた夜空を
彼女は独りで見上げることになるのだろう
よだ
貴方を置いて、先に卒業してしまうこと
どうか許してください
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おしまい。