兵庫県立美術館「世界遺産ポンペイの壁画展」ブロガー向け内覧会
兵庫県立美術館「世界遺産ポンペイの壁画展」のブロガー向け内覧会に行ってきました。SNSで展覧会の感想を書く代わりに、学芸員さんの解説を聞けたり、作品の撮影ができたりするわけです。ポンペイという街はイタリア南部にありまして、西暦79年(日本は弥生時代)にヴェスヴィオ火山の噴火により1日余りにして地中に埋もれてしまった街として有名です。火山灰が乾燥剤の役割をしたこともあり、長い時間を経て、18世紀に貴重な遺跡として発掘され、ユネスコの世界遺産にも登録されました。このポンペイ壁画が日本にやって来て展示されているのが今回の展覧会です。フライヤーに使われているフォントはローマン体のTrajan、そして特色の赤・金。展示の企画内容を理解したフライヤーで素敵だなと感じました。Trajanは西暦114年にローマで建てられた「トラヤヌス帝の碑文」が元になっています。ヴェスヴィオ火山の噴火は西暦79年、トラヤヌス帝の碑文が建立されたのは西暦114年、書体選定に意図を感じるのは考えすぎ?さて、展示をパッと見て思ったことを素直にいうと「大きい」です。要は壁ですから。厚みも凄いです。壁ですから(笑)一番最初に展示されているのは《赤い建築を描いた壁面装飾(前1世紀後半)》です。赤が印象的な壁画です。他の作品も見ていると赤がよく使用されているのですが、この赤「ポンペイ・レッド」と呼ばれているそうです。少し黒が混ざった金属的な印象の赤だなと思いました。なぜ赤が多用されているのか、ハッキリとした理由はまだ分かっていないそうです。そして発掘された瞬間はもっと鮮明な赤だけど、湿気に触れて色が変わってしまうそう。近づいてみると細かい描写もありました。奥行き(遠近法)があることが驚きなのですが、部屋を広く見せようとしたのかな?などと想像してみたり。たくさんの壁画とともに、道具や顔料の展示もありました。この時代は「フレスコ画」、漆喰を壁に塗り、乾くまでに水で溶いた顔料で描く技法で描かれています。道具が形を産み出すわけですから「古代の道具を使って壁画を描いてみよう」みたいなワークショップあればぜひ参加してみたいです。一番反応したのは《グラッフィーティのある壁画(前2世紀末)》。これは2000年前の選挙広告だそうです。ただ現代のように出馬する側が描くのではなく、当時は「私はこの人を応援します!」というものだったそうです。なんとこの時代は選挙広告を専門に描く職人さんが居たようです。他にも...《カルミアーノ農園別荘、トリクリニウム(後62-79)》なかなか爽快な景色で赤い壁が迫ってくるような感覚に陥りました。ぶどう酒をつくっていた農園の中にある別荘(食堂)に描かれていた壁画だそうです。ギリシャ神話に登場する神々が描かれています。古代ローマ人はギリシャ文化への強い憧れがあったそうです。壁画で部屋を覆う感覚、というのは日本人には理解しがたいものかもしれませんが、あえて言うなら襖絵や屏風絵のような感覚だったのでしょうか。《踊るマイナス(後1世紀後半)》マイナスは、ディオニュソス、バッカスの女性信者なのですが、なかなかのおてんばさんだったようです(笑)。このマイナス、《カルミアーノ農園別荘、トリクリニウム》にも描かれています。よく描かれるモチーフなのでしょうか。布の描写が美しくかつ繊細で、この展示会でも目立つ存在でした。《赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス(後1世紀後半)》チラシのメインビジュアルに使われているこの壁画はポンペイと同じく世界遺産に登録されたエルコラーノのアウグステウム(皇帝崇拝の場)から見つかったものです。エルコラーノもヴェスヴィオ火山の噴火で地中に埋もれてしまった街です。日本初公開で、重さが約500kgもある大壁画です。写真で見ると大きさが伝わりにくいのですが、身長160cm弱の私が見上げるほどの大きさでした。この壁画もギリシャ神話の一説となっています。ヘラクレスが息子と出会う瞬間を表現しています。ここにもギリシャ文化への憧れが。ヘラクレスのフォルムの美しさに感心してしまいます。このアウグステウムに描かれていた壁画があと2枚展示されています。その2枚もギリシャ神話なのですが、描かれている神々のプロポーションの美しさ、構図の工夫、皇帝崇拝の場に飾られる絵だけあってこの3枚は存在感が違いました。《天球儀(後62-79)》この壁画はテルマエ・ロマエの作者として有名なヤマザキマリさんが好きだと仰っていたそうです。天の黄道(太陽の道筋)を表す天球儀で、中に描かれている4人の女性は四季を表現しています。当時は科学水準はいかほどだったのでしょう。《フェニックスと2羽のクジャク(後1世紀後半)》展覧会の最後に展示されているこの絵はポンペイの食堂にあったもので「Phoenix felix et tu.(フェニックスは幸せである。君もまたそうであるように)」と書かれています。「et tu」は「あなたも」という意味で、有名な「Et tu, Brute?(ブルータスおまえもか)」と同じ言葉です。ホスピタリティというと言い過ぎでしょうか?人間らしさを感じて微笑ましく思いました。最後の質疑応答で「今回の展示で苦労されたことは?」という質問があったのですが「安全性」と仰っていました。仮設の壁をつくりどこまで強度を保証できるか、歴史的遺産が粉々になる危険、作品の前に人が立ってたら大怪我になってしまう危険、悩んだ末仮設の壁はつくらず美術館の壁に設置されたそうです。昨今の日本の災害事情を考えると致し方ないことで、悩まれた上でそう決断されたこと応援したいと思いました。美術作品を鑑賞する時、どうしても画家の人生や作品にかけた思いなど「過ぎたドラマチック」を求めてしまうのですが、今回の展覧会では本来の「描(えが)く」と「歴史」に目を向けることができました。近代絵画の画家達もポンペイの壁画を見ており、自身の作品にかなり影響を受けたそうです。新古典主義の背景となっています。時代も違えば、国も違う、もちろん文化も違う、そんな壁画たちを皮膚感覚で理解するのは正直難しかったのですが、2000年の時を越えて肉眼で見るポンペイ・レッドは眩しかったです。【展覧会詳細】「世界遺産 ポンペイの壁画展」会期:10月15日(土)〜12月25日(日)会場:兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20時まで開館)休館日:月曜日【関連イベント】いいむろなおきマイムカンパニーによる公演「ポンペイの夢」会期:12月4日(日)14:00〜会場:兵庫県立美術館 ミュージアムホール定員:250名※ 公演の観覧料 1,000円(別途ポンペイ展観覧券が必要です)【参考】●兵庫県立美術館 ポンペイの壁画展http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1610/●動画:世界遺産 ポンペイの壁画展 報道内覧会https://www.youtube.com/watch?v=QqNfZLwkTyE