2017年8月15日(火)。
「Negicco x lyrical school FREE LIVE Avec Summer Breeze @ Yoyogi Park」
会場:代々木公園野外ステージ
開場:16:00
LIVE:17:00~18:30(O.A 16:30)
特典会:18:45~20:00(CD販売、物販14:30~)
入場料:FREE 優先入場あり
出演者:Negicco, lyrical school, WHY@DOLL (O.A)
8月15日は旧盆にあたるため、いつもならば墓参りを兼ねて帰省するはずなのだが、今年は諸般の事情で帰省を取りやめた。
このライブに参戦したいために帰省をやめたというわけではなく、あくまでもわが家と実家の事情によるものだった。
だが、その理由はいかにせよ、このライブに参戦することができることにはなったわけである。
Negicco, lyrical school, WHY@DOLLこ、の3グループによるライブ、しかも入場無料。
カミさんを伴ってゆくには絶好の機会である。
カミさんには、今年中に一度、Negiccoのライブを体験してもらいたいとは思っていたのだが、経済観念がきわめて鋭利な、言い換えれば財布の紐が硬い、さらに簡単に言えば要するにケチなカミさんであるから、タワレコ新宿店あたりでかならず開催される観覧フリーなリリースイベントを狙っていた。
タワレコ新宿店ならば、自宅からの電車賃もカミさんの許容範囲内のはずである。
しかし、ニューシングル発売にニュースは流れて来ず、すると7月末に「Negicco 2011~2017 -BEST- 2」の発売が告知されてきた。
それならば、このベスト盤のリリースイベントがよかろうと思っていた。
だが、いつもならば必ず、開催されるはずのタワレコ新宿店では、なぜかミニライブを伴ったリリイベが予定されてはいなかった。
そうこうするうちに上記のイベント詳細が発表され、なんとそれは観覧フリーということだった。
このイベントならば、店舗内のミニライブよりも数段上の環境で初ライブを体験できるはずなのは、容易に想像できるのだった。
カミさんに、ダメ元で打診してみる。
「代々木公園の野外ステージで、Negiccoが出演するライブがあって、しかも入場無料。こんな機会はメッタにないから一緒に見に行かないかい?」
すると返事は、
「いいよ」
という、至極あっさりしたものだった。
高校一年生の愚かな息子にも打診してみる。
「一緒に行こうよ」
すると畳の居間で横になった体勢のままひとこと、
「めんどくせえ~」
もうそれ以上は彼にいくら言っても、暖簾に腕押し、何をかいわんや。
そうであることもわかりきっていることなので、これ以上は告げることをしなかった。
当日が近づいてくるにつれ、その日の天候が気になってきた。
カミさんにはできるかぎり良い条件下でのNegiccoライブを初体験してもらいたかった。
雨傘を指しながら、あるいはポンチョを着用してのライブ参戦は、自分はかまいはしないが、カミさんのためには勘弁願いたかった。
8月14日の前日、朝から曇り空が続いた。
翌日の天気予報は、昼過ぎから雨が降るというものだった。
しかし、予報がはずれることもしばしば発生しているし、空模様、これだけは当日の雨雲の動き方次第でいかようにも変化するので、そこに期待するしかなかった。
カミさんとは、予報が当たらなければよいね、と言い交わしたりしていた。
そうは言っているものの、当日、雨が降っていたら、
「わたし、行くのやめるわ」
と言い出しかねない懸念もあることを、自分は抱いていた。
当日の朝、起床してしばらくしていると、外から雨音が耳に入るようになってきた。
予報よりもかなり早い、雨の降り出しだった。
しかしその分、早めに雨の止むことが期待できる。
ライブ開始の午後4時30分までには、まだずいぶん、時間が残されているr。
やはり、そこに期待するしかなかった。
そしてもうひとつ、Negicco晴れ女伝説にも。
やきもきしながら、部屋の窓から何度も外を眺めてみる。
降り止む気配は、やってきそうになかった。
そうこうするうちに、カミさんが自宅を出発する時間がおとずれた。
カミさんは、せっかく代々木公園まで出かけるのだから渋谷の街で買い物をしたい、という思惑を抱いているため、自分よりの2時間ほど早い列車に乗車する心づもりだったのだ。
「ポンチョを持っていったほうがいいよ」
と自分が告げると、
「そうだね」
とだえけ答えて、素直に下駄箱の脇の収納スペースからそれを取り出してバッグに詰めた。
(やっぱり止めておくわ)
というセリフを言い出す気配は微塵も感じられなかず、その予想外な振る舞いにかすかな拍子抜けを味わった。
カミさんとの待ち合わせは、16時きっかりにNHKホール前で落ち合うことにした。
この雨降りでは、早く現地に到着して厄介になるだけであろうし、観客も当初の予想よりかなり減ることが想像できたからだ。
しかし、NHKホールから目と鼻の先にある代々木公園野外ステージなのだから、普通ならば16時15分の待ち合わせで十分なのだが、そこはそれ、遅刻常習犯であるカミさんの行動癖を考慮した上で、15分間の余裕を設定しておいたのだった。
しばらくして、自分が自宅を出なければならない時間がやってきた。
100円均一でずいぶん前にカミさんが買ったポンチョが、カミさんによって収納から出され玄関に置かれていたので、それを自分のジーンズの左後ろポケットにねじ込んだ。
愚息はすでにどこかへ外出してしまっており、誰もいなくなる自宅を後にし、止みそうもない雨の中を最寄駅へ向かった。
16時ちょうど、NHKホールの前に到着した。
案の定、カミさんの姿は見えなかった。
しばらくするとスマホのバイブレーションがジーンズの右ポケットから感じられたので、それを取り出してみるとメールの着信が表示されており開封してみたところ、
『いま、パルコの前を通過中』
という文字を読むことができた。
10分ほどすると渋谷方面か見えてきたのは、別に急ぐわけでもなく自分のペースのままに歩みをこちらに向かって進めている一人の姿だった。
その姿はたとえが古いのだが、映画『E.T.』に登場する主人公である宇宙人が地球上で歩く姿を彷彿とさせるもので、かつてはそれに愛嬌を感じられたのだが、ちょっと以前からはそれがいささか疎ましく思えてきてしまっていることは、いかんともし難いことだった。
ようやく自分の目の前に到達したカミさんが発した最初の言葉は、
「ゴメンね」
というもので、これまた毎度おなじみな言葉なわけで、(だったら、もっと早めに間に合うように行動しろよ)という自分の内部における怒りと諦めの相半ばする感情も、いつもながらのものだったけれど、さらにはこれをまた一言もカミさんに向かって発しないことも常と同様だった。
そんなことはさて、とりあえず一応、カミさんが雨の中を傘さしながら現場までやってきてくれたわけで、これはこれで一安堵。
ということで、すぐそばにある売店で生ビールを一杯購入し、カミさんに差し出す。
ここにやってきてくれた感謝と雨の中をおつかれさまという慰労を込めたのだが、そんなことは一切、忖度することなく、ビアカップの半分を飲み干していった。
開演15分前、売店の軒先で雨宿りする方も数名。
雨の止む気配はまったく感じられず、しかし、いつまでもそうしていられるはずもなく、自分はカミさんにポンチョを着用するよう命じ、自分も薄っぺならそれを羽織って野外ステージエリアへ歩みを進めた。
ビニールでできたポンチョの生地を雨粒が打ち、その一滴一滴のごくかすかな衝撃を肌に直接触れている両腕に感じ、頭からはそれをさらに同時多発的に受けているのは、雨中における野外イベントに参加していることをいかにも如実に感じさせられる。
隣接する物販エリアでは、いまになっても列ができており、その進み具合は順調なものとは言えない。
いまさらその最後尾に並んでも、開演までに間に合うことはなさそうなので、物販で何かを購入して優先エリア入場券を手にすることはあきらめ、優先エリアの後方に設置された柵の後ろから、ステージを眺めることにした。
すると、
「優先エリアを開放します」
というアナウンスが聞こえてきた。同時に、
「優先エリアでは傘の使用はご遠慮下さい」
というアナウンスも伴ってきた。
すでに自分もカミさんもポンチョを着用しているので、一般として入場する人波に混ざって優先エリアへと進んでいった。
そして、なんとなく人の流れによってステージに向かってやや右側、前から10列目くらいのところにスタンディングすることになった。
自分のほうが身長が高いため、自分の前にカミさんを立たせた。
ステージが近い。
優先エリア券を持たずとも、かなりな好位置を確保することができたのは、小雨などとはとても言うことができない今日の天候によるものだろう。
自分もカミさんもポンチョの頭巾を被っている。
周囲の方々も皆、同様である。
そうしていると、目の前にいるカミさんを後ろから眺めても、その表情はポンチョのフートにより遮られて横顔のかすかな表情すら読み取ることができない。両隣の観客に視線を送っても、やはりほぼ同様である。
ある意味、ポンチョを各自が身に纏ったことによって、通常のスタンディングライブよりも各観客がそれぞれ独自にステージと向かい合うという感覚が生まれているように思える。
それはカミさんという連れが存在している自分にとっては非常にありがたいことで、通常ならば、いちいちカミさんの表情をうかがいながら、カミさんの反応を気にしながらライブ参戦するはずであろうことが、かなり軽減されるのではなかろうことは予想された。
オープニングアクトであるWHY@DOLL(ほわどる)がステージに登場した。
2週間ほど前に、ほわどるのリリイベに初めて足を運び、そのビジュアルとパフォーマンスに十分に心を動かされたので、その場でニューアルバムを購入したのだ。
その後、日曜日の夕食時にそのアルバムをBGMとして流してみたところ、
「Negiccoかと思った、そっくり」(カミさん談)
「父ちゃんの好きそうな音楽」(愚息談)
という感想が自分に投げかけられた。
「そりゃあそうだ、同じレーベルメイトだから」
といって自分は言葉をにごした。
音楽やアーティストへの印象は各自が自由なのであり、こちらの好みを押し付けるものではない。
だが、それ以上に、この二人にほわどるの魅力を伝えようつすればするほど、自分が滑稽さを増すばかりになるであろうことが瞬時に把握でき、いまさらではあるのだが同時に父親の沽券に関わることも発生し、そんなこんなで、結局はわからない奴にはわからないという結論で4終えていた。
そのほわどるがいま、カミさんの前で歌い、踊っている。
あのとき、自分が感じた魅力とまったく同じ、いやそれ以上ものを発揮している。
それをカミさんがいま、感じられているであろうか?
カミさんと接触するほどの真後ろに位置しているにもかかわらず、カミさんの心の動きはまったくわからなかった。
そして同時に、ポンチョを着ているためにカミさんの顔の表情が窺い知れなくなっても、やはり帯同してきた人間のことが気になってしまうのは、どうしようもないことなのだということを突きつけられた。
だがその反面、カミさんの視野がポンチョフートによって狭められているのが明らかであるため、ほわどるの持ち歌 『恋なのかな?』 で登場する親指と人差し指をクロスさせてステージに向かって差し出し、差し戻す振りコピをカミさんの頭上においてカミさんに気づかれることなくしてのけることによって、思いがけずも“してやったり”感を存分に味わうことができたのは、実はかなりな快感を覚えたのだった。
カミさんから、ほわどるの二人への感想が出なかった。
lyrical school(リリスク)。
自分もカミさんも、tofubeatsのニューアルバムリリイベにおいて、ゲストとして登場したかつてのリリスクを体験しているが、メンバー5名のうち3名を入れ替えるという大胆な振る舞いを行ってからは初見。
運営の決断と選択は、間違ってはいなかった。
以前よりもパワーアップしている。
ここまでのパフォーマンスに仕上げるまで、新メンバーの葛藤や努力はいかばかりだったか。
それは、察するに余りある。
それはヘッズの皆さんが、以前とまったく変わりなく盛り上がっていることによっても明らかで、新リリスク、おそるべし。
リリスクが終わった途端、自分とカミさんの前にいたヘッズの方々がゴソッと後方へ退かれ、それによって、自分とカミさんが必然的に前方へ進むことになった。
いよいよNegiccoの登場である。
【セットリスト】
01. ともだちがいない!
02. トリプル!WONDERLAND
(MC)
03. さよならMusic
04. ねぇバーディア
05. 圧倒的なスタイル
06. ときめきのヘッドライナー
07. 愛は光
さらなる好位置を確保できて、迎えたNegiccoの三人。
小雨になる気配もあったので、ポンチョのフードを外した。
これをしていると、視野も聴覚もせばめられてしまうのが、いかんともしがたい。
やはり、フードをしてないほうが心地よいことは、計り知れない。
カミさんはやはり、女性であることもあってヘアスタイルが濡れるのを避けるためか、ポンチョフードを外すことはなかった。
したがって、Negiccoのときもカミさんの表情はわからなかった。
だが、さきほどの2組とあきらかに違うのは、かすかにカミさんの身体が上下していることなのだ。
Negiccoの楽曲に無意識のうちに、カミさんの身体と感情が同調しているのは背後からも明解だった。
もちろんそれは、Negiccoの楽曲群だけは自宅で自分がBGMとして何度も流していることによる剃り込み効果が表出している面もあるのだろうが、でもそれだけではなく、楽しんでいる気配が目の前の背中から伝わってきている。
そしてその表情を見ることはできないのだが、でもまちがいなくほのかな笑顔を浮かべ、視線はNegiccoのメンバー3人を次々と休む間なく、女性同士における特有なうっとりとした視線を送っていることが自分には鮮明に把握できる。
この日の条件下ではまさかないだろうと思っていたあの曲、そのイントロが流れた。
『圧倒的なスタイル』
そう、ついにカミさんと肩を組んでラインダンスを実現できる。
そのとき、夫婦であることを理解していたのであろう、カミさんのとなり位置を肯きながら、どうぞと譲ってくれたのはさすがネグヲタさんだけのことはあって、おかげでカミさんと肩を組む瞬間がやってきた。
雨に降られつつポンチョを着てのラインダンス。
雨雲であっても、夜が迫っていること感じさせる夕闇、それによって昼間の明るさが減りつつあるこのとき、そんな条件下でのラインダンス、それはそれは趣き深いものだった。
ステージ上では、出演者全員によるラインダンスが繰り広げられ、それは雨の中を足を運んできた僕らへの出演者からの贈り物にちがいなく、僕らはそれをしっかりと目で受け止めつつ、ステージと観客とで一体化した。
もちろん、その中の一人にカミさんがいるということは、自分にとっては特筆しべき出来事だったわけで、カミさんの肩から首、そして向こう側の肩に自分の腕を廻し、カミさんからも同様にしてもらいつつ、右足左足を上げることによって起きる不安定さをお互いが支え合うことで転ばずにいられるという、時間にすれば10秒ほどのものなのだが、それは単にカミさんと二人だけで単に肩を組むだけの行為ではありえないエモーショナルさを生じさせてくれ、それは一瞬だけの感慨だったのだが、しかし、ラインダンスにおけるカミさんの表情は、やはり窺い知ることができなかったことだけはかすかに心残りではあった。
原宿駅へ向かう歩みを進めながら、カミさんから聞かれたNegiccoへの言葉は、
「かわいい」「素敵」「歌がいい」「やっぱりライブのほうが家で聴いているよりはるかにいい」「ライブ、楽しい」「三人とも、足が綺麗」
などなどで、それを聞いた自分は、うんうんとひたすら頷くのだった。
きっとこれから、このライブに参戦したことが折にふれ思い出されるにちがいなく、そのときには必ず、当日が雨降りだったことも伴う話になるはずで、ということはそれはそれで、天の采配であって天がわざと準備したご趣向だったのかもしれない。