この5月から、携帯電話をスマホにチェンジした。
携帯電話にこだわっていたのは、
スマホにしてしまうと日々の通勤列車での貴重な読書時間を、
スマホに取って替わってしまうことが明白だったからだ。
その予想どおり、スマホをタッチしていると際限がなく、
読書をほとんどしなくなってしまった。
これではいけないと思いつつ、ついついスマホに手が伸びてしまい、
そして、5ヶ月が経過した。
このままでは本当にヤバイ。
その日は、
取引先の方のお通夜へ列席するために、
郊外電車に1時間ほど乗車しなければならなかった。
ちょうどよい機会だから、
その長い車中で文庫本を読んで、
読んだのちに読書習慣の復活へと結びつくような、
そんな本を購入して、列車に乗ることにした。
駅前の書店に入る。
ややこしくて途中で挫折するようなものではなくて、
どんどんページが進むような、手軽に読めるそんな本を探した。
探したとはいっても、何気に手にとったのがこの1冊だった。
赤い表紙に通天閣のデザインが気に入ったし、厚さも手頃。
織田作之助賞を受賞というのだから、ハズレはなさそうだった。
通天閣。
20年ほど前に、一度だけそこらあたりを訪れたことがある。
確か、昼間の11時頃だったはずだけれど、
すでにその時間帯で、怪しい雰囲気を漂わせる方が眼についた。
この本の登場人物は、
まさにそんな方々を彷彿とさせてしまう見事な筆致。
あの界隈の持つ独特なムードが存分に伝わってくる。
ストーリー的には、
最初はちょっとその世界に馴染めないのだけれど、
まあ、それはどの小説でも同じことで、
読み進んでゆくうちに著者の手玉に取られてしまい、
ラスト近くでは、「そう来るかい。」 という展開。
あの界隈、
次回、訪れるときはまちがいなく、
くまなく通天閣の鉄骨を下から順番に眺めてゆき、
きっとあそこに違いない、と一人で悦に入ってしまうことだろう。
やはり読書はいいものだ。
この本のおかげで、
どうやら読書習慣が復活しそうな気配となった。