池袋 新文芸座にて
“永遠の映画スター”三船敏郎特集の1本 『無法松の一生』
映画館のチラシより
「戦時中の検閲でカットされた名作を稲垣執念のセルフメイク。『前作は無いものと思って三船の松五郎を作ってくれ』と言う稲垣に三船も張り切り、連日撮影の2時間前に来て、一人で祇園太鼓の稽古を重ねたという。キネ旬7位、ベネチア映画祭金獅子賞」
1958年(昭和33年) 104分。アグファカラー、シネマスコープ
監督/稲垣浩 脚色/伊丹万作・稲垣浩
三船敏郎 富島松五郎役
高峰秀子 吉岡良子役
名作といわれる阪東妻三郎主演の1943年版は未見だけれども、こちらも名作の誉れ高い三船主演版をようやく見ることができた。
名作は、やはり名作に相違なかった。
何度も映画化、ドラマ化、舞台上演、さらには演歌にもなっただけのことはあるストーリーで、日本人の琴線をかき揺らさずにはいられない。
主役から脇役にいたるまですべて出演者、美術、衣装、セット等々、画面のすみずみにまで監督の力がこもっている。
主人公を演じる三船敏郎は38歳、この年には黒澤明監督 『隠し砦の三悪人』 にも主演しているのだからおそれいる。
日本映画がもっとも輝いていた頃の映画、さすがだ。
まだ観ていない方にとっては、今後大いなる楽しみが待っているということ。
富島松五郎は車夫。
緋毛氈の赤が効いているのはアグファカラーならでは。
幼い頃に継母がやってきて、母親からのあたたかな愛情をうけた記憶はない。そのせいもあってか、粗にして野なところがある。
車夫の半纏を羽織っていれば木戸銭免除だったはずなのに、ここにきていきなり木戸銭を要求されたので怒り心頭。1等席のマス席をはり込んで、相棒の熊吉とともにあろうことかそこで煮炊きを始める始末、鍋には大蒜やら韮やらをぶっこんでの嫌がらせ。腹に据えかねた小屋の者たちと、名前のとおり“無法な”大立ち回り。
乱暴者だけれど、性根のやさしい松五郎、仕事の途中で木から落っこちて泣いていた男の子を家まで送ってあげる。
その家の主人は陸軍大尉の職業軍人、主人にもすっかり気に入られる松五郎。しかし、雨天演習が災いしたか主人は急死。
その主人にかわってなにくれとなく世話を焼く松五郎。後家も弱虫のぼんぼんもすっかり松五郎を頼りにするように。
ぼんぼんの運動会、500m走に飛び入り参加する松五郎、走ることにかけては人後に落ちない松五郎、ぼんぼんも知らず知らず応援に身が入り、そのおかげもあって見事一等賞。走り方が人力車をひっぱているときと同じなのはほほえましい。
学芸会の準備のために二人の前で唱歌「青葉の笛」の練習するぼんぼん、翌日の本番でも見事に披露でき、弱虫がだんだん克服されてゆく。
松五郎は小学校を卒業できていない。そんな自分の境遇を胸に秘めつつ、ぼんぼんの授業を窓から垣間見る。
これ以上はストーリーを語ってしまうことになるので、ここまでに。
三船入魂の太鼓打ち、祇園太鼓の技が次々と。