人は
人は鏡を見られなくなる
身体の周りにたくさんの装飾をつけて
部屋中に魔除けの護符をばらまいて
友人は皆知らない世界に縛り付けて
鏡から目をそらす

人は
人は風の音に気付かない
荒野に町をつくり
海を埋め立てて
夜空を光で満たして
風を聞かなくなる

人は
人は童話を語らない
町から鵺を駆逐し
トモカヅキをメタンハイドレートの底へ沈め
トロールやぬらりひょんは放射能で殺した
童話はもう、語られない

人は
人はそんなふうだから
地面の下の子供達に気付かない

人は
人はもう人ではない

人は
人はもう一度
川のずっと先、海には続かない川の先
あの暗闇の中で
ひっそりと
誕生する
この夜空のしたでも
愛を語る少女達が
眠れない少年が
死を見つめる老人が
耳をすましている

僕は人々のため息に
耳をすます
わずかな悲しみも
あるいは感動も
聞き逃さないように
郊外から都心に向かう電車は
吐き気がするくらいゆっくりと走った
10月も終盤に差し掛かった空気は
相変わらずムッとしている
近づいているらしい台風の低気圧のせいで
脳みそがムクムクと膨張して
神経を圧迫する
あの背の低い灰色の町から
針山のように建ったビルとコンクリートの町へ
電車は進む
ちんたら
ちんたら
ちんたらたら
そこに何がある?
何かある?
初めて徹夜をした夜の感動と、絶望と
そういう体験を重ねて
電車はこんなところまで来てしまった
ちんたら
ちんたら
ちんたらたら
来てしまった
この町の向こうに抜ける電車はもう無い
じゃあ四方から集まる線路はどこに行くんだろう
ぶつかる
潜る
何にせよきっと
ちんたら
ちんたら
ちんたらたら