君でなくても、良かったのかもしれない

そして、僕でなくても、良かったのかもしれない

出会った頃の僕達が、お互いにとって必要充分な性質を持っていたかなんて、そんなわけ無い

もしあの日、刺すような日射しから逃れて、陰の中で邂逅したのが他の誰かであったとしても

二人はきっと、丁度今の僕らのように、神楽坂の喫茶店で下らない話をしているのかもしれない

つまり、運命の二人なんていないって言う、話 君と僕も、きっと、そういう二人だって言う、話

 

でも、あの南国の昼間から、二人が今も一緒にいるということは

それぞれの個人史的な意味において、とても重要なことなのだと思う

そして、君のごく個人史的な意味において僕が重要であるということは

僕にとって、この宇宙で何よりも重要なことだと、思う

誰かとの関係は、時間のそれと同じように、円環を描きながらも、取り返しのつかないようにできている

誰かとの関係は、時間のそれと同じように、何かの上に何かを、積み重ねて、ゆっくり進んでいく

 

その始発点がどこかということ 君であった理由 僕であった理由

二人でなくても、良かったのかもしれない と、思ったんだ

 

君のおかげで、僕は本質的に孤独ではなくなった

夜の闇の中で生温かい歪なカタワレを探さなくても大丈夫になった

月明かりの中で、君と滑らかな環で居られる

 

今夜の満月を指でなぞる

あの環はどこから始まって、どこで終わるんだと思う?

そんなこと、明日になればきっと、忘れてしまうでしょう