同窓会は一応、大阪のホテルで行われた。小学校の同窓会だから、どうせ居酒屋で酒を引っかけながら飲むんだろうと思っていた僕は、当日の出発直前、電話で話していた友人にスーツを着てこいよと言われて愕然とした。持っていない。悩んだ挙句、僕の家に置きっぱなしにしている、小池のスーツを借りて行くことにした。海の家の作業を終えて、シャワーを浴びてもなお汗ばんだ身体に、小さめの服が張り付いた。

 会場で、僕は居場所がなかった。2000円の食べ放題だけを黙々と腹に入れた。同級生が立派に社会人をやっている中で、プー太郎の僕がつんつるてんのスーツを着て立っていた。たまに顔の思い出せない奴が来て、いま、何やってんの、と訊かれても、何にもしていない。海の家。何をやってるんだろうと思った。耐えられなくなって、集合写真を撮る前に会場を出た。帰り道、逃げ帰る自分の背中を、幽体離脱して見ているような気分になってみじめだった。道の植え込みに唾を吐いて、それは例の一夏のアヴァンチュールに吐いたつもりだった。そんな幻想があの寂れた、狭い海岸に無いことも、今日同窓会に来ればどんな思いをするかも分かっていた。分かっていて、それを回避する気力もないのだった。陳腐な魂は、それらに唾を吐くだけで、満足した。ふと、唾を吐いた植え込みに虫が蠢いているのに気付いた。甲虫ではなくて、芋虫的な、人差し指程の大きさ。暗い夜道で、ほとんど真暗色のその虫に気付いたのが不思議に思われて、立ったままじっと見つめた。うねうねと動くそれを、気持ち悪いなと思う。
「それ、弱虫」
後ろから、女が言った。同窓会に居た女だ。ただ、小学校のときこんな奴いたかなと思う。マスカラが黒く固まって目元を汚している。広く開いた胸元で、白い肌に血管が青く浮いていた。化粧で作った顔の下に、地味な顔が想像出来た。想像して、ああ居たかな、と思ったが、やっぱり居なかったような気もする。そんな、顔なのだ。
「可愛らしいね」
その女は、標準語のイントネーションで喋り、虫を拾い上げた。虫は、女の手のひらで必死に這いつくばっている。その必死さが、女の微笑が、勘に障った。女の手から虫を取り上げて、早足で家に向かった。
「虫のことなんにもわからないでしょう。家で飼うつもりなの」
女は若干走るような具合で、早足の僕に着いてきた。身体を寄せてきて、大きい胸が肘に当たる。小さいスーツが、いっそう身体にへばり着く。
僕は首を捻って女の顔を見た。上目遣いの地味な顔がこちらを見上げていて、僕の腹の奥のほうでは軽蔑と、下衆な感情が浮かんだ。虫は手の中で相変わらず必死に身体をよじっていたが、さっきよりほんの少し、大きくなったような気がした。