元来背が高くて、他を威圧する空気を持っているのが次女である。
 最近、子供を産んでからはこれが全体に膨らんできたモノだからまた迫力倍増で、脇を通過されると周囲に影ができて恐怖を感じるほどになってきている。
 さらに子育てと家事に慌ただしく睡眠不足気味で、そこまでかまっちゃいられないのかこのところ見た目の堕落ぶりが甚だしく、たいして長くもない髪を頭頂部でひとつに束ねているのだが、元来毛が黒く、量も多いため束ねた以外の部分が異様に拡がって見え、サイババを想起させるような風体に成り果てている。
 見かねた私が、
「髪を切ってこい、かわいい孫に恐怖のトラウマが残ってしまうわ」
といってしかたがなく5千円札を差し出すと
「がる」
喉の奥でひと声次女は唸り、鋭いツメで私の手の甲の肉を削ぎながら紙幣をむしり取るが早いか、金の変わりに孫娘を残して疾風の如く走り去った。
「おい、坊主にして来いよ!」
 私は通行人をなぎ倒しながら走り去る次女の巨大な背中に向けて、そのように大声でジョークを飛ばし、かわいい孫娘の子守をしながらつい、うとうととうたた寝をしてしまった。


 思い暗雲が急激に空を覆い尽くすという悪夢にうなされて目を覚ますと、なにか周囲が薄暗い。
 孫はくぅくぅとちいさく鼾をかいてよく眠っているのだが、その寝息を圧するように頭上からぐぅぐぅというヒキガエルが花粉症を患ったような異音がする。
 背筋が凍り付くというのはこういうことか。
 私の心臓は、5回ほど鼓動を忘れた。
 次女が極めて重い空気を纏いつつ、私を見下ろしている。
 周囲の光を吸収してそびえ立つその頭部に毛はなく、天井の蛍光灯を背後から浴びてその形相は確認できないものの、その分輪郭がくっきりと浮かび上がっていて、まるでダイアモンド・リングのように光を反射して輝いている。
 私は失禁寸前であった。
 次女は親族ではじめてスキンヘッドを経験した者となったのだ。


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