歯ァ欠いた 阿呆面こいて いい調子


どうよ こんな一句
季語もないな


だいたい歯を欠くって言うこと自体が既に間が抜けている


間が抜けた行為の果てに現れたその姿は典型的な間抜け

動揺しただろうな
温泉場で桶を取り上げようとしてしゃがんだところにサウナの扉が開いて 
アッ
と言う間もなく
飛びすさる
間もなく

顔面から星が飛び散り
焔に灼かれているかのような激痛と恥辱
震える
頭を起こせばそこには垂乳根の婆
欠けた前歯でニッと笑うそして
大丈夫かい?
恥辱のあまり頷けば 欠け落ちる歯
タイルの床にカチン
鮮血がだらん
顔を見合わせて笑うしかない


歯ァ欠いた 阿呆面こいて いい調子

婆と私ふたりして

涙が出る

婆 あと10年
私 あと65年

恥辱の季節を歩かねばならない失神に値する時間の長さ


歯の揃ったあまりに美しい女
その長い髪を洗い流す
官能的なシャンプーの香りと共に
私の歯が下水に落ちた

このアマ 歯ァ欠いたるど

私はその長い髪を毟り掴み 膝で顔面に一撃
鮮血が吹き上がり女の鼻が折れた


幸せ


ひん曲がった鼻柱のその下に
くらい洞穴の如く
口腔の闇がのぞいた

よしよし それこそが真の美


中川 ひろたか, 大島 妙子
歯がぬけた (わたしのえほん)