あーぶーあーぶーと読経が響き渡る
そもそも
何語で喋るのが一番通りがいいのかと言うことすらハッキリしないこの貧民窟に
まったく言葉とさえ思えない発声で 読経が響き渡る


読経してるんだからそれは坊さん

しわくちゃの黒いスーツに黒いネクタイして

顔中涎の跡が白く残っていて 干からびた鼻水が唇にこびり付いている

ごまだら禿頭のあちこちに切り傷があって いつもジュクジュク
血を滲ませている 膿を持って

太っているクセに眼の下が青黒くて何となくげっそりして見える

私は知っている もちろん知らない振りをしてはいるが
こいつは私の妻を犯した
こいつは私の妻の肛門にも挿入した

私は知っている もちろん知らない振りをしてはいるが
こいつはあまりに粗末でふにゃふにゃなので
妻を犯すとき 割り箸で添え木をせねばならなかった


世界中の
ひねくれ者がひねくれ者だからこそ貧しくなって寄り集まってきたこの場所に

その貧しさから救ってあげよう

低く低くそう言って
         読経する(あーぶーあーぶー)坊さんが現れたはいいが 
そういう本人もまたひねくれていて貧しい
         貧しい 貧しい 貧しい

ひねくれ者にはひねくれたまま幸せを
貧しき者には貧しいままの幸せを
私は罪を犯し
それがどうしたと開き直ったから
開き直ったなりの幸せを
その読経の向こうから顕現させて見よ

ひとりひとりの幸せをひとりひとりの
その暮らしから

えらい坊さんはげっそりして高鼾
 
寝てしまった


井上 希道
魂に喝を入れる禅語―禅の巨匠に学ぶ