アランが、「僕たちも何かつまもうよ」と言ったので、調理しながら、ミニピザとゴートチーズのディップをつまみながらシャンペンを飲んだ。
その時、アランが二人に、今朝起きた事件のことを話した。
「いや、最初にお隣さんを招待したって聞いたから、またアランが良からぬ考えを起こして女性をここへ連れて来たのかと思ったら、そういう事情だったんだな。じゃあ、かすみ。たくさん食べなくちゃダメだよ。塀を壊されちゃったんだから償ってもらわなくちゃ」
アルベールが言うので、みんながそれぞれの思いで笑った。
他人と一緒に何かをすることは楽しい。
今朝、誘われた時には簡単に承諾をして軽率かもしれないと思ったけれど、来てみてよかったと思う。
やがてお肉が焼けた。
私は準備しておいたサラダに調味料を合わせた。
何か入れ物に移そうかと思ったけれど、銘々皿にはお肉以外ににも乗せられるだけのスペースがあった。
そこへ分けて載せようかと思った時、アランが私の手を止めて言った。
「セルフサービスでいいんだよ」
そうか、日本とは違うんだと思い、焼けたお肉のプレートの隣に置いた。
アランは、赤ワインを抜き、新しいグラスを持って来ると、シャンペングラスと交換した。
「サンテー(健康に)」と今度はフランス語で言ってからグラスを合わせた。
何だか不思議の国にでも迷い込んだような気がしていた。
当然のことだったけれど、周囲は外国人だけ。そして私はその中の一員として自分の場所を確保できているようにさえ見える。
でも本当は、急なことで心の準備ができていなかったから、ということも考えられるけれど、何だか自分を演じているもう一人の自分がいて、心と体が別のものような奇妙な違和感を感じていた。
もしかすると、アルコールのせいかもしれないとも思う。
でも決して酔ってはいない。ゆっくりのペースで長時間に渡って飲んでいるので量は進んでいるかもしれなかったけれど、水も飲んでいたので酩酊している感覚はなかった。
その内にこの違和感は消えるだろうとも思ったけれど、結局、パーティーの終わりまで消えなかった。
翌日は月曜日なので、21時過ぎには、イザベラ達の持って来たティラアミスとエスプレッソでデザートを済ませ、パーティーをお開きにした後、アルベールとイザベラは私にもキスの挨拶をして帰って行った。
私は、アランの後片付けを手伝った。と言っても手際のいいアランは、既にほとんどの食器を水洗いして洗浄機に入れてあったので、サラダボウルと残りの物を片づけ、汚れたテーブルを拭くと簡単に終わってしまった。
「ありがとう。かすみのおかげで早く片付いたよ」
「あら、そんなことないわよ。
でも、こちらこそ、とても楽しかったわ。どうもありがとう」
「ねぇ。後は、部屋に帰っても眠るだけでしょ? ダイジェスティフ(食後に飲むお酒/リキュールやブランデーなどちょっときついお酒のことが多い)を飲んで行かない?」
「ん~、そうねぇ……」
「迷うくらいなら、飲んで行ってよ」
「えぇ、本当ね。ごちそうになるわ」
私が迷ったのは、アランも男性なので、ずるずると変なことになってはいけないという警戒心からだった。
こういうところまでは、きっと彼も読んでいるだろう。
そして、この後、彼がどうしたいと考えているかについては、私が読まなければならないことだと思った。