「僕、実はアジア人の女性が好きで、前の彼女は韓国人女性だったのです」
「そうでしたか」
「えぇ。とても頭のいい女性だったんだけど、彼女の友人たちが騒がしくて、おまけにご両親にお会いした時も、驚くほど賑やかでした」
「それも多分、人に依るのだと思いますけど」
「そうですね。僕だって祖父母がイタリアから移民して来てこの国にいるので、別に彼女と友人や家族だけで韓国人を評価してはいけないと思うのですが、とにかく疲れてしまったのです」
「それは、わかります。あなたには合わなかったということなのですね」
「だから2か月で恋が終わりました」
「2か月? それは短いですね」
「僕の場合、イタリア人の家族が集まったら、とても賑やかで、子供の頃からそれが苦手だったのです」
「まぁ、そうなんですか? んー、でも、イタリア人ファミリーって、私から見ると、とっても仲良しに見えますよ」
「その通りなんです。仲良しです。でもね、愛が飛び交い過ぎると息ができない」
アランのおどけて首を振る調子に笑った。
「私は、母以外に家族はいませんし、親戚は遠くに暮らしていたので、時々しか会うことがありませんでした。なので静かな環境で暮らして来たのですが、賑やかで仲のいいファミリーを見ていると、羨ましく思いますよ」
「そうですか? じゃあ今度、僕の親の家に招待しますよ。あなたは、僕と一緒に逃げたくなるかもしれない」
「そうですか? 逃げたくはならないかもしれませんよ」
「よし。じゃあ、来月の最初の日曜日に出掛けるので、一緒に行きましょう」
「え? 本当にですか?」
「えぇ、本当ですよ。都合が悪い?」
「いえ、そんなことはありませんが、急にご一緒してもご家族の方に驚かれないかと思って」
「驚いたりしませんよ。従弟や、その彼女や友達や親戚や…。ともかくパーティーをすると言えばいろいろやって来るんです。僕の両親は、昔レストランで働いていたので料理が得意で、いつもテーブルからはみ出しそうなくらい食べ物があります」
「そんなに、たくさん?」
「えぇ、大家族だったから、いつもそうでした」
「ご兄弟は多いのですか?」
「5人兄弟で、僕が真ん中なのです。姉、兄、弟、妹がいます」
「わぁ、いいなぁ」
「イタリア料理ばかりだけど、家で作ったパスタは本当においしいですよ」
「私、パスタが大好きなのです」
「あぁ、それは良かった。じゃあ、来月の最初の日曜日ですよ。空けておいてくださいね」
「日本だと、遠慮をして行かないと思うのですが…。厚かましいかもしれないけれど、行ってみたいと思うのです。アラン、本当にいいですか?」
「かすみさん、僕が誘っているんだよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
私にとって、特に男性とこんな風に急激に発展する友人関係は初めてだった。
相手が外国人であることと自分が外国に暮らしていることの両方の環境が、自らを少し変えた一瞬のような気がする。
そして、アランは優秀なのに、気さくないい人だと思った。
1時間遅れて、アランの友人たちがやって来た。
男性はアルベール、女性はイザベラと言った。
最初に、アランたちはキスのあいさつを交わし、私とは初対面なので握手のあいさつをした。それから三人はフランス語で会話を始めたので、私には何の事だ かさっぱり分からず、でも、私を紹介してくれていることと遅刻の言い訳なのだろうということは、なんとなく察しがついた。
アランが
「では、今日は英語で会話をしよう」
と言ってくれたので、彼の友人たちもフランス語訛りは強かったけれど、私のために英語で会話をしてくれた。
日本では、こんな風には行かない。なぜなら日本人は恥ずかしがって、英語ができても、こんな風に切り替えようとはしないからだ。
よく考えてみると、それは不親切で失礼なことではないかと思う。
日本に帰ったら気をつけようと思った。