その後、私たちは、よくやくお互いの自己紹介をした。
彼はアランという名のイタリア人。
飛行機を作る会社でエンジニアをしていると言った。
数学が得意ではない者にとって、その職業だけで既に尊敬に値すると思った。
「今日やって来るのは、友人のカップルで、学生の頃からの友人なのです。僕にも彼女がいたのですが、2ヶ月前にふられちゃって今は誰もいないので、彼ら がやって来ると三人で食事をすることになります。それでもいいと思っていたのですが、あなたもお一人のご様子だし、僕には下心がないので、都合が良かった ら一緒にバーベキューをしましょう」
どうやら怪しい人ではなさそうだった。お隣とはいえ、初めて会話をした相手だ。
一瞬、迷ったけれど、特に予定もなく、もう少し話をしてみたい気持ちもあったので、気分転換になると考え直し、彼の誘いに応じることにした。
「私は、今日のランチにはサラダを作るつもりでいたので、それを持って伺いますね」
「あぁ、それは助かります。お肉はたくさんあるので、じゃあ、僕はパスタを用意しておきますね」
1時間半後に、友人たちがやって来ると聞いたので、同じ頃に伺うと告げた。
それから、サラダの下ごしらえをした。
ちょうど、大きすぎると思いながらも魅力に負けて買ってしまったカリフラワーと、これも消費するのに3日はかかりそうなサラダ菜がある。
カリフラワーは、コンソメベースに、ハーブとマヨネーズやミルクなどを加えでドレッシングを作り、シボレーをからませた。
サラダ菜の方は、刻んだガーリックやトマ トと混ぜてオイルで軽くトスして冷蔵庫に入れる。食べる直前に、塩コショーとレモン汁を混ぜるために、別の容器に用意しておいた。
遅れては申し訳ないと思い、時間通りに彼の部屋のチャイムを鳴らすと、まだ他の人たちは到着していない様子で、サラダボールを二つ抱えた私は、アランに手伝ってもらいながら、それをテーブルへと運んだ。
アランは、テーブルにグラスを並べ、その中にきれいな模様の紙ナプキンを挿して、上手に飾り付けをしていた。
(やはりイタリア人には、センスがあるのかも?)
周囲を見回してみると、天井までぴったりサイズのクローゼット以外に背の高い家具のないことに気がついた。
そのせいで空間が広く見えるのだ。
自分の部屋と同じ間取りとは思えないくらい広く、そしておしゃれな部屋だった。
なんだか自室のごちゃごちゃした感じが恥ずかしくなった。
(インテリアの本を買って、少し勉強してみよう)
アランは
「シャンペンでいいですか?」
と尋ね、オーケーをすると、次いでカシスのリキュールを加えるかどうかを質問した。
答えはYesだ。
別にお酒が好きなわけではない。でも、お酒を飲んで友人たちとワイワイする雰囲気が好きだし、恋人といても心が少し高揚するのが心地いいと思う。
それには、透明な泡立つ飲み物よりも、少し赤みのある方が魔法の飲み物みたいでロマンチックに思える。
「日本語でグラスを合わせる時には、なんと言うのですか?」
「乾杯と言います」
「イタリア語では?」
「チンチンと言います」
「・・・あ、そうですか」
「今日は、日本語で行きましょう」
「はい」
依存はなかった。