さて、前回の分析から何が見えてくるだろうか。
キーワードとして抜き出してみると「社会性」「風俗」「賞に対する貢献」「斬新さ」「メタファー」といったところだろうか。

これらのワードを、下読みの選考基準と比較してみよう。
>□「物語設定」「キャラクター」「ストーリー」「構成」「表現技術」「オリジナリティー」などの各ポイントで高い評価を得られるような作品を書く
(以前のブログより引用)

「斬新さ」と「オリジナリティー」はほとんど同じ要素であるとして、その他の要素についてはより具体的な内容が評価の対象となっていると感じる。
ライトノベルと一般の差もあるのだろうが、「物語設定」や「表現技法」「構成」といったものが一般文芸の新人賞で評価の対象にならないというわけではないはずだ。
「風俗を描くこと」は「物語設定やストーリー」の中で表現されるものであり、両者は切り離せないものであるからだ。
「メタファー」も「構成」の一部と捉えることができるし、「社会性」も「ストーリーや構成」と切り離せないものである。

ただ「メタファー」や「社会性」の根っこにあるものとして「作品の持つテーマ」というものが下読みの選考基準には不足しているかもしれない。
最終選考をパスするためには、「テーマ」というのも外せないキーワードとして入れておくべきではないかと思う。

これらのことを勘案して、
「物語設定」「キャラクター」「ストーリー」「構成」「表現技術」「オリジナリティー」「テーマ」という7項目を新人賞受賞のために必要な要素として取り扱っていくことにする。
実に久しぶりのブログである。
色々言い訳が必要なところだが、とりあえず選考委員の審査基準を探っていくことにしよう。

日本ファンタジーノベル大賞の最近2回の選評を分析する方法をとることにした
日本ファンタジーノベル大賞はその名前からライトノベル新人賞だと勘違いされることもあるが、森見や恩田などを輩出した一般エンターテイメントの公募賞である。

直接選考委員のコメントを引用したいところだが、転載禁止と書かれているため要旨を抜き出すことにする。
[参考url]
http://www.shinchosha.co.jp/prizes/fantasy/21/
http://www.shinchosha.co.jp/prizes/fantasy/22/

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21回
荒俣宏
・結末に意外性を
・説得力のある描写を

井上ひさし
・物語を組み立てることにより小説的構造物をつくろうとしたのを評価する
・素晴らしい比喩が散りばめられた文体である

小谷真理
・社会派小説が多い
・奄美大島の生活がリアルに描かれていることが大きな魅力

椎名誠
・奄美大島の新たな魅力が読者に広がることに意味がある
・狭ぜまとした話ばかりではなく、もっと明るくて世界をひっくり返すようなお話を期待したい

鈴木光司
・癒し系ブームに逆らい、人の心を抉るような作品を描いた勇気を、大いに評価したい。


第21回は、「増大派に告ぐ」という社会派小説と、「月桃夜」というストレートなロマン小説が受賞した回である。(両方共読んだことはない)

「増大派に告ぐ」はメタフィクション(小説を通して暗に現代社会を批判する物語)として機能しているらしく、社会問題を容赦なく描き、読者の心を容赦なく抉るような内容が評価されたようだ。また、比喩表現、物語の構造、緩急のつけかたなども高い評価がなされているらしく、社会派であること+小説としての出来のよさが受賞に繋がったと思われる。

「月桃夜」については、奄美という新鮮な題材を丁寧に料理したこと自体が評価されているようだ。これは、奄美という題材が小説を面白くしていると同時に、小説が奄美の新しい様相を読者に提示するという、ある種、小説の外にあるものによって評価が存在していることを意味するのかもしれない。階級社会、圧政といった社会的な要素が含まれている点も評価されているようで、ロマン小説といっても、社会的なものから自由にはなれないようだ。

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22回
荒俣宏 
・奥深い裏テーマを評価

>戦艦の造りが進歩するのと並行して事故の危険も増す方向に改められていくという、興味ぶかい裏テーマを隠している。
>正体の分からない人物とその行為を、分からぬままに物語るというファンタジーの方法

小谷真理 
・特殊な個性を評価
・右翼的な見地から誤読される危険性を危惧

椎名誠
・作品の新鮮度がなければ駄目

鈴木光司 
・既にある流れに身を任せて書くのではなく、それに逆らって書こうという自覚を持って書いた小説を評価
・もっと分かりやすいメタファーとして描いて欲しい


第22回では『前夜の航跡』という、戦前の日本における訓練中の海難事故と、ふしぎな彫刻を作成する仏師の関わり合いについて描いた作品が受賞した。(こちらも未読)

22回の選評では、どちらかというと、どういう理由で作品を推すかより、「どういう理由で作品を推さないか」、について語っている部分が多かった。特に作品の新鮮さが重要で、それがない作品はなかなか受賞できないようである。また、「右翼的見地からの誤読」を危惧するコメントもあった。作者が意図しているかどうかに関わらず、読者によって作品は何らかのメタファーとして受けとめられる可能性がある。作品を何のメタファーとして描くのか、読者の中でどのようなメタファーとして受けとめられるのか、ということも考えていかなければならないだろう

ところで、前回までのブログと口調が変わっているかもしれないが、あまり気にしないで欲しい。

〔2〕Howto本から、下読みの選考基準についての記述を探す
の部分が終わっていませんが、とりあえずの結論を出してしまうことにします。

「〔1〕下読み経験者の話を探す」から見つけたするべきこと
□チェックシートを作る(済み)
□既存作品を連想させない作品を作れるようにする
□センスのいいタイトルをつけられるようにする
□面白く梗概を書けるようになる
  ⇒あらすじが面白い物語を考えられるようになる
  ⇒梗概そのものを面白く見せる技術を学ぶ
□カテゴリーエラーにならない小説を書く
  ⇒投稿しようとしているレーベルのカラーを知る
  ⇒どのような小説が求められているのか考える

「〔3〕評価シートを探す」から見つけたするべきこと
ライトノベル新人賞に投稿するのであれば、
□「物語設定」「キャラクター」「ストーリー」「構成」「表現技術」「オリジナリティー」などの各ポイントで高い評価を得られるような作品を書く


やや抽象的で半端ですが、とりあえずこれで「下読みの選考基準を知る」作業は一旦終わりです。
次回からは「選考委員の選考基準を知る」作業をはじめます。