■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            2.本当の2周目の始まりは、ただ新たな苦悩の始まりだった

DAY53

朝、沢村さんの軽トラが戻ってきた音で目覚めた。

私「おはよー。」
沢村さん「今日、Noisyは、安楽寺から行くんやろ?」
私「そうよ。」
沢村さん「そしたら今日僕もそっちの方へ行かんといかんきん、そこまで乗せてあげるよ。その後は、用があるから無理やけど。」

テントを畳んだり、身支度をしていると、パトカーがやって来たのが目に入った。

沢村さん「あ!来た!もーー!面倒くさいなあ!嫌やきん!」

そう言って、沢村さんは、その辺のものを投げ去って軽トラでぶーんと何処かへ行ってしまった。
私は、正直、笑えた。
このまま沢村さんが帰ってこないとしても、沢村さんのテントだけ残して、自転車で出発すればいいだけのことだ。
むしろそれでもいいのだけどとも思った。
パトカーは、しばらくこちらの様子を伺っているようだったけど、沢村さんの軽トラが走り去ったことで、パトカーも立ち去って行った。
直ぐに沢村さんが戻って来た。

沢村さん「もー。ここは、いかんきん!!僕は、なんちゃあ、悪いことしとらんのに、なんかあ!もー!Noisy、ここはいかんきん、早よ行こ!」

沢村さんは、さっさと支度を済ませたので、私は沢村タクシーに乗って、沢村ラジオを聞きながら、6番安楽寺へと行った。
沢村さんは、私の自転車と荷物を全部降ろしてくれた。

毎度毎度だけど、お別れの挨拶をした。

私「それじゃあ、沢村さん、いかに言っても、もうこれが最後でしょ。じゃあね!」
沢村さん「僕も用事があるきん、これが最後になってもらわんと困るんですよ。」

そう言って別れ、私は6番安楽寺を打って、7番十楽寺へと向かった。
1周目の頃のことを思い返しながら懐かしくさえ思いつつ自転車を走らせ、十楽寺に到着して、お参りを済ませた。
8番の熊谷寺を打ちさえすれば、今度は、吉野川を渡って反対の南側へ行き、途中別格2番の童学寺を打って、11番藤井寺から徳島市内へとどんどん打って行けば、この辺りは全て終了になる。
沢村さんと焼山寺へも、もう既に上がっているので寄る必要もない。
そう思いながら、8番熊谷寺へ自転車を走らせていたら、向こうから沢村タクシーがやって来た・・・。

私「もー、沢村さん!いつまでうろついてんの?帰ったら?」
沢村さん「僕は用事があるきん、帰られんって言っとるでしょ。で、Noisyは、熊谷寺に行きよるん?」
私「そうだけど・・・。」

私は、このまま沢村さんをやり過ごそうと思っていた。

沢村さん「それで今日は、何処へ泊まるん?」
私「いや。まだ決めてないし、わからないけど。」
沢村さん「それやったら、鴨の湯って言うお遍路小屋があるんですよ。そこやったら、畳敷きの部屋で寝れるし、お風呂もあるきん、そこがええよ。」

いくら沢村さんをやり過ごしたいとは言え、私だって寝床も必要だし、情報だって必要なのだ。

私「え?それは、何処?」
沢村さん「そしたら、連れて行ってあげるきん。」
私「でも、待って!私、熊谷寺へ行かないといけないんだけど。」
沢村さん「僕はちょっと今日、時間がないきん、今やったら行ってあげるよ。熊谷寺も乗せて行ってあげるし。」

くそーーーーー!!!
自分で自転車で行きたいけど、あまりにも沢村さんの情報は有益過ぎた。
今なら、スマホで簡単に探せるものもこの当時は、スマホなど存在せず、探すのが一苦労だったからだ。
今は、吉野川に沿って徳島市内からその両サイドを行ったり来たりしているだけなのだ。どうやっても沢村さんに会ってしまう。
うーーーん!!なんとかせねば!
ただ、今聞いてしまった有益な情報は逃したくなかった。

私「もーーー!!自分で行きたかったのにーー!!でも、寝床に毎晩困るのは疲れてるから、じゃあ、そうして!」

私は、半分ふてくされ気味に沢村タクシーで熊谷寺を打って、善根宿の鴨の湯へと行った。

沢村さん「Noisy。ここよ。そこで寝れるしお風呂も入れるし。」
私「沢村さん、ありがとう。でも、本当にこれが最後でいいから!ほんとにほんとに、これが最後!もう御節介はいらないよ!」
沢村さん「わかっとるきん!」

そう言って、沢村さんはその辺りをうろついたり、軽トラで出かけたりしていた。
私は、別に沢村さんが嫌いというよりも、これで相手をしていては、いつまでも離れて行ってくれないと判断したのであえて、相手にはせず、遍路小屋にいた人達と話をしたりした。
沢村さんが、軽トラで何処かに消えている隙に私は、急いで出かけた。
沢村さんから離れて、作戦を練りたかったのだ。
今度の作戦は、乱れ打ちルートの作戦ではなく、沢村さんを煙に巻く作戦だ。
マックがあったので自転車を道路から見えないように隠し、まるで忍者かのように身を潜めススッと中へ入った。

忍者遍路


ドリンクを注文して考えた。
明日、藤井寺に一人で歩いて行って、例え、それに沢村さんが付いてきたとしても、出発するときに自転車で出発して、沢村さんには、絶対一緒に行こうなどとは言わない。
でも、徳島市内までは、どうしてもお寺通しも近くて吉野川沿いに寺が集中しているから出会う可能性は高い。
かと言って、私は自転車だ。
それなりの速度で今は暑くもないし走っているとはいえ、原チャリ程度の速度だから、どうしても車では追いつかれてしまう・・・。
どうしたものか?
それに明日は明日で寝床が必要だ。
結局、沢村さん情報には勝てないのだけど、それをなんとかかわせる作戦が先に必要だ。
あ!そうだ!
どうせ、この辺りに来たら栄タクシーへ寄ろうと思っていたのだ。
明日は、あそこへ泊めてもらって、あそこなら敷地内のしかも2階に部屋があって、1階には事務所もあるし、流石に沢村さんも入っては来ないだろう。自転車も、タクシー会社の車庫内に入れられるから、奥の方へ入れておけば、外から見えることもない。
そうか!
明日は、道中、仮に出くわしてしまったとしても、夜、栄タクシーで煙に巻く。
その後、徳島市内から高知県方面へ抜けてしまうから、流石にこの辺りで用があると言っている沢村さんは、もう来ないだろう。
私は別に、沢村さんは嫌いじゃない。
でも、自分の足で走り抜けたいのだ。
それなら、沢村さんに来るなと言えばいいのだろうけど、私は、何度か言っているはずだ。
沢村さんも寂しいだけだろうし、ずっと付いてこられるのは困るけど、別に私を困らせようとしているわけでもないので、無下に切り離すこともできない。私は、どうしても他の人の様に沢村さんに「お前は、ゴミだ!来るな!」と言う言い方はしたくなかった。
このまま自然に流れが、切り離してくれることを願った。

作戦も整ったので鴨の湯へ戻ってみると、台湾から来ているジェフリーと言う歩き遍路の青年が泊まりに来ていた。

私「日本に住んでるから、回ってるの?」

彼は、日本語が上手だった。

ジェフリー「いや。前は住んでたけど、今回はお遍路をするために来たんだよ。でも、今日、2日目だけど、ちょっと自分の装備が甘かったから、一旦明日には帰って、もう一度出直そうと思ってるんだ。」

そうこう話していたら、沢村さんがNoisyは、ここにいたのか!といったような顔をしながら軽トラで戻って来た。
そして私達に寄って来て、話を聞いている。

私「え!?そうなの?どうしても無理なの?」
ジェフリー「うん。ちょっとこれではやっていけないと思った。でも絶対、もう一回戻って来て続きから行こうと思ってるよ。」
私「じゃあ、明日は、直ぐに帰る方向へ向かうの?」
ジェフリー「いや、明日は、一応ここに荷物を置いて、11番の藤井寺だけは行っておこうかと思ってる。」
私「おお!それじゃあ、明日、一緒に行こうよ!」

これで私は、明日、沢村さんではなくジェフリーと行くことを沢村さんも思い知るだろうと思った。
つづく・・・   

いいね!と思ったら、1日に1回のポチッもよろしく~!
     ↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
面白かったり何かを感じたら、いいね!やランキングにポチッしてくれるとテンション上がって明日からも張り切る励みになります~♪ありがとう!

お遍路 ブログランキングへ
読者登録してね