手術当日、母が来た。

わたしに掛ける言葉がないんだろう。

Nも同じだろう。

みんなが感じたあの幸せはもう戻らないのだから。

静かにその時間が来るのを待った。


ごめんね、しかなかった。

もっとちゃんとした生活をしておくべきだった

結婚したら、妊娠する可能性があったにもかかわらず

わたしはなぜか自分が妊娠するとは思っていなかった。

いつ妊娠してもおかしくない状況でありながら

あまりに軽く考えていた、妊娠のこと。



麻酔を嗅がされ、意識が遠のく。



目覚めたら、もう、お腹のなかには

赤ちゃんはいなくなっていた。


麻酔が覚める頃、猛烈な吐き気と

意味不明のうわごとでわたしは暴れたらしい。


2時間くらいして、意識がはっきりして

深い悲しみが襲ってきた。


母が言った。


わたしも流産したことあるから、わかるよ。
でも、妊娠が継続できないくらい赤ちゃんは弱かったってこと。
今はしっかり自分の体を労りなさい。
そして、また授かるから。


Nはわたしの手をずっと取っていた。


Mちゃん、赤ちゃんは次またきっと来てくれるよ。
だから自分を責めないで。
空で赤ちゃんが見てるから。
きっとまたぼくらのとこに来てくれる。



翌日、退院した。

Nの両親にはNが連絡をしてくれたらしい。

わたしにはあんなに喜んでいた両親に
合わす顔がなかったから、しばらくは
電話ができなかった。


帰宅すると母がいた。

部屋に花を飾ってくれていた。


なんのかんの言ってもやはり母親だ。

ありがとう、、、。


そうして、1週間ほど養生して

バイトに復活した。


Nも、いつもと変わらぬように

仕事に出る。


たった2週間だったけど、


わたし達は意識こそしていなかったけど、
赤ちゃんが欲しいと思っていたと言うことを
しみじみ感じていた。


身体を整えよう、


そうしてわたしはタバコと深酒をやめた。


またいつか来てくれるであろう赤ちゃんを

万全な心身で待ちたかった。



でももうわたしは34歳。


そう時間がないことに

少し焦りを感じ始めていた。