昌也は小学校の同級生

彼の兄は知的障害・・・自閉症だったと思う

いつもあちこちウロウロ

昌也の兄貴は馬が好きで

競馬場に一人行って行方不明になったり

家族はいつも探しまわったり

幼い僕等は昌也の兄貴あ僕等とどこか違うと感じてはいた

結構仲間内で話が出た

昌也一家が成田山にお参りしたり

「そこでお兄さんは治る」と言われたと話す昌也

「あれは病気じゃない治るわけない」

「治ったらいいね」

兄貴の事になると剥きになる昌也

この時治らないと言った友達に食ってかかる昌也

昌也の兄貴はよく学校に来た

家の近所でも見た

行方不明にもなった

学校で立小便したり

小学校ならいいけど

中学時代にこれがあった

正面玄関の脇で立小便する昌也の兄貴

面白がる見物人・・・・我々・・・女生徒もいた

「見るなあ」と叫びながら兄貴に覆いすがる昌也

兄貴がどこか通い出し働き出した

「あんな奴が働けるわけない」

「どこで働いてるの?」

「給料は?」

月5千円くらい・・・今にして思えば作業所か福祉施設だろう

昌也の兄貴がイジメられてるのを見た事はない

皆それとなく知りつつ

風景の一部としてあった

昌也の兄貴は兄貴で自由に生きてた

童謡が好きで

テープレコーダーで繰り返し聞く

電池代が馬鹿にならないと言う

何回も聞くのでテープも擦り切れる

家の中で歌を聞きながら手を叩き嬉しそうに飛び跳ねる

昌也の兄貴

外ではダンボールの梱包用の黄色いビニールテープをいつも新体操の選手のように振って遊んでいた

彼が社会人になって僕の部屋に遊びに来る

子供の頃の思い出は悪夢だという昌也の話を聞いた

僕としては以外だった

しかし彼にしてみれば傷ついていたのだ

当時のことを詳細に話す昌也

僕も責められた

彼を一回殴ったこと

成績表を無理矢理見たこと

その二つのことはお互い憶えてて

僕はその時謝った

兄貴の事も話に出て

昌也にとっては劣等感の種だと言った

だから高校は少し離れた地域にした

兄貴の事や自分の事を知らない環境に行きたかったと

彼は彼で幼い頃からそんな家で生まれ

同級生のささいな言葉が胸に刺さったのだ

彼自身結構イジラレキャラでもあった

それだけに色々な事をこちらより様々な事を記憶してて

色々話を聞いた

昌也の母親はいつも目つき鋭く

不信感は僕等にも伝わった

世間の目は冷たく

何時も行方不明になる息子を抱え

疲れてたようだ

こんな家族を抱えた人は作業所のスタッフに多い

彼等は障害者を抱えた家族の一員として

幼い頃から様々な苦労をする

イジメを受ける障害者の兄弟を守るため

兄弟でボコボコにされた

そんな話を作業所のスタッフから聞いたり

よく地域の中で開かれた福祉をとか共生社会とか言うのだが

社会の側はどうなんだろうか?

人を見れば犯罪者と思えみたいな空気

犯罪予防のため子供達に必死に人の後についてくなと教える学校や親

それが今の社会の現実だとしたら・・・

子供達も随分窮屈な中で生き

親達も不安

地域と言った所で近所付き合いも録に無い

そんな中で昌也と兄貴の事をフト思い出す

少なくとも当時の東京下町はまだまだ近所付き合いも世間もあったのだ

そんな中で昌也の母親は孤立してたと思う

それだけのこともあったのだろう

僕の偏った見方に過ぎないのだが・・・・

僕の姉が精神病になり

家族ですら何が起こってるかわからない

その後、兄弟に精神病を持つ人と何人か知り合い

何回も話した

僕は仕事で話を聞いた

やはり社会の非情や無関心

さりげない言葉に傷つき

色々悩むのだ

精神医療の遅れに社会資源の貧弱さ

だから家族は障害者を抱え込みボロボロになる

そんなこんな日々が続き

更に大変だと思うのが

一人っ子・・・

これは今書く気がしないが・・・

和君親子はどうだったろうか?

カリエスで背中が曲がり

体力も無い中

同じく自閉症児を抱えた家族

僕の職場の家族

この母親はかなり過酷な生を受け

自分が学校にも行けず

体力もなく

それでも福祉の仕事をしたかったと語る

だから結婚して我が子が障害を持ってても喜んだ

「神様が私に子育てという形で福祉の仕事をさせてくれた」

と喜んだ

嬉しそうな顔で色々話す和君のお母さん

父親の方は東北出身で極貧の中大きくなり

近所の子供がりんごを食べ捨てたりんごの芯を拾って食べた

「子供がああだろ

女房も背中が曲がり

一緒に買物に行くとみんなしてジロジロみやがる

冗談じゃねえよ」

そんな話を仕事の休み時間に聞いた

和君は僕に逢うと「メガネメガネ」と言って

僕からメガネを取り上げ

自分でメガネをかけ澄ました顔をする

体の弱い母親を助け一緒に料理を作ったり

それでも自傷行為が絶えず包帯を手に巻いたり

カリエスに苦しみながら母親は和君が15で亡くなり

残された和君は施設に行ったと聞く

今の社会では障害児の父子家庭はなかなか成り立たない