昨日フランスから無事に帰国しました。

一昨日、パリから今回のツアー最後の公演地である南仏・エクス-アン-プロバンスに移動しました。

この地にはこの旅の団長である狩野秀鵬先生の能舞台があります。

当時九州の久留米にあって使用されていなかった能舞台を狩野先生がプロバンスに寄贈されたのが94年の事。

それ以降、狩野先生はこの地で多くの公演を続けてこられました。

私は初めて伺ったのですが、半野外の能舞台はプロバンスの街に何の違和感もなく溶け込み、夕陽が射し込むその姿は感動的ですらありました。

その夜の公演も新作能「ジャンヌダルク」を上演しました。(私は地謡を担当)

オルレアン、パリと公演を重ねてきたのですが、囃子方との連係がしっくりいかなかった部分もあり、もう一つ手応えが得られずにいました。

それがプロバンスでの公演では三回目にしてようやく「これだ!」という感覚を得る事ができました。

上演しながら「この感覚は回数を重ねたというだけではない。能舞台の力だ。」という確信を持ちました。

これまではホールに仮設舞台を作っての公演でしたが、場所に対する不馴れからくる不安感や音の抜けの悪さなど、どうしても普段通りにいかない事が多々ありました。

それが能舞台に立った瞬間、全てのマイナス要素が消え去ったように感じたのです。

謡と囃子とが響き合い、シテがそれに呼応する。

一句ごとに溢れる感性と一体感。

「戯曲の中に我々は確かに生きている!」という実感が身体を包みました。

能は能舞台で演じてこそ最大の魅力を発揮出来るという、当たり前の事をプロバンスの能舞台が教えてくれました。

この能舞台がいつまでもこの地に在り続けてくれる事を心から願いながら、フランスを後にしました。